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ふたりだけのせかい

第2章 其の弐





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実弥と出会ったあの日から、どれくらい日にちが過ぎたのだろうか。
随分過ぎた様に思えるが、実際にはそうでもない。

無惨はあれから未だ姿を見せる事もなく、今まで自分の身に起きた事すべてが夢ではなかったのだろうかと思える程の静けさだった。



最近、私は何故だかぼんやりする事が多くなった様に思う。
頭の中に浮かんでは消え、浮かんでは消えを繰り返す、母の姿。
そこまでは今までと何ら変わらない。
脳にこびりつく様に、一瞬たりとも忘れた事はない。

ただ…そこに加わったのだ。
実弥の姿が。
微笑むわけでもないのに、心がじわりと暖かくなるような、あの表情が。





「はぁ…」





一体どうしてしまったというのか。

そんな事を考えながら、私の足元へと擦り寄り、くぅん…と甘える様な可愛らしい泣き声をあげるおはぎの頭をよしよしと優しく撫で上げる。





「お前も最近は元気になったわね。…本当によかった」





おはぎに対しても、今まではどこまで踏み込んでよいものかわからず、どこか壁を作ってしまっていたが あの件以来、どこか吹っ切れて自分の思うままに接しられる様になった。

実弥に約束した通り、きちんとした小屋を用意して、その中には肌触りの良い手拭いを何枚かいれて寝心地の良い様にしてやった。
雨や風の強い日には自室へ入れてやり、一緒に眠ったりして。


だからか、と言われれば本当のところはわからないが おはぎも日に日に元気を取り戻していた。



人間というものは、大切なものや守るものがあれば強くなれるというが、私はそうは思えない。
大切なものや守るものがあれば、それを失う事が怖くて、臆病になる。弱くなる。
少なくとも間違いなく私は、そうだろう。





おはぎには、もうこの先私の様に復讐や憎しみ、恨みに囚われずに幸せに生きていってほしいと、そう願っている。




私の今のこの気持ち、行動を、無惨が知れば。
どう思うのだろう。
それこそ、八つ裂きにして殺されてしまうのだろうか。
お前は、復讐の為に生きているのではないのか、と。



こんな安逸をむさぼっている暇などないのだ。
頭ではわかっているのに、私はどうしたというのか。
答えの出ない自分自身への違和感に、嫌になってしまいそうだった。







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