第2章 其の弐
ふふ、と中々収まらない笑みを浮かべながら、ふと目の前の男の 額にある傷、右目の下辺りにある傷に目が止まった。
普通に生活をしていれば、そんなに広範囲に それもいくつも 顔に傷がつくという事はないだろう。
何かに惹かれる様に、その傷から目を離せなくなる。
「…ねぇ。私、実弥くんと何処かで会った事がある?」
気付けば、無意識にその傷へと手を伸ばしていた。
だけど、その手を止めようとは何故だか思わなかった。繊細なガラス細工に触れるかの様に優しく触れる。
古傷だからか、もちろん血も出ていないし、かさぶたもない。
その部分だけ少し白くなっていてざらりとしている。
そっと傷を撫でる様に触れれば、微かに実弥の肩がぴくりと揺れた気がした。
「…いや、今日が初対面だァ」
振り払われると思っていたが、実弥はこちらを向いて静かにそう告げる。
綺麗な三百眼と視線が絡んで、目を離せなくなる。
つい先程までとは打って変わって、静かな時が流れていた。
「そう、よね…。ごめんなさい、変な事言って」
「いや…いい」
この妙な安心感、見覚えのある様な傷。
もやもやとしたものが心に影を落とす。
でも、何処かで会っていたなら、こんな一度すれ違うだけでも記憶に残る様な派手な外見の人、忘れるわけがない。
頭ではわかっているのに、何故だか気になって仕方がない。
もっと知りたい…、そう思わずにはいられなかった。
さっき会ったばかりなのに。
「せっかくこんなに整った顔立ちしてるのに、沢山の傷のせいで怖く見えるわ。勿体無い」
そんな気持ちを誤魔化す様に、へらっと無理矢理口角を上げて笑顔を作る。
名残惜しいが 傷に触れていた手をゆっくりと離す。
「…巫女ってのは皆こんな感じなのかァ」
「え?」
「いや…なんでもねェ」
ぼそぼそと呟かれた言葉は聞き取れなかった。
バツの悪そうな顔をして、目を逸らされてしまった。