第2章 其の弐
拒否などさせないとでも言うように、食い気味に実弥の言葉を遮った。
「…おい待てェ。勝手に決めんじゃねェ」
「いいでしょう?今までと変わらず、この子の顔を見に来てくれればいいのよ。小屋や必要な物は私が用意するし…何より、私も実弥くんがいると思えばこの子を一人にしてしまうかもって思わずに済むし 安心できるもの」
ぴき、と青筋が浮かべ 片眉をあげながらこちらを睨みつけてくる。
そんな実弥に動じず、にこりと微笑みかけ なんとか納得させようとぺらぺらと言葉を並べた。
そしてそうこうしているうちに、子犬は米粒ひとつ残さずぺろりと綺麗に完食していて、私達から離れ嬉しそうに駆け回り出す。
「…約束はしねェからなァ」
そんな子犬を横目に、ゆっくりと立ち上がる実弥につられて私も立ち上がり、ぽんぽんと袴に付いた砂を払う。
そんな私を無言で見つめる実弥だったが、根気負けしたのだろう。
はぁと盛大に溜息を吐き諦めた様に呟かれた。
「ふふ、ありがとう」
「…調子の狂った奴だぜェ…」
「ねぇ、この子の事なんて呼んでるの?私名前をつけていないのよ」
「…」
そう、尋ねた途端に 実弥はぴたりと全ての動きを止めてしまった。
額には冷や汗の様なものも見受けられる。
そんなにまずい事を聞いた覚えはないけれど…
一体なんだというのか。
「どうしたの?」
「名前はつけてねェ」
「…今の反応、絶対に何かあるでしょう」
そんな反応をされては、こちらも気になって仕方がない。
未だ固まる実弥の顔を覗き込み、再度尋ねても押し黙ってしまう。