第2章 其の弐
「この子の事、飼う気はない?」
「聞いてなかったのかァ、俺は犬は好きじゃアねェ」
復讐に生きる私には飼う資格なんてないし、何より いつ居なくなるかもわからない身。
この子犬が心を許して甘えられる人がいるならば その人に飼われるのが一番いいだろう。
それに、野放しにしていて もし親犬を殺した人に見つかったら…その時に私がいなければ、また同じ事が繰り返されてしまうかもしれない。
それだけは絶対に避けたかった。
だからこそ、この人なら…そう思ったが、何か飼えない理由でもあるのだろうか。
「ご家族に犬が苦手な人でもいるの?」
「…いや。俺に家族はいねェ」
「そう、なの。…ごめんなさい」
私の問いに少し実弥の空気が揺らいだ気がした。
あまり触れて欲しくない事だったのかもしれない、私だって同じだ。
そう思うと差し出がましい事を言ってしまった気がして、申し訳なさが募り眉が下がる。
「気にすんじゃねェ。…俺はいつ死ぬかわからない、だから最後まで責任持ってこいつを育ててやれねぇんだ。だからお前が育ててやれェ」
いつ死ぬか、って。
病気とか…?
それとも、こんなに傷だらけなのだから、何か危うい事でもしているのだろうか。
謎や疑問ばかりが残ってしまうが、何故かこれ以上は聞いてはいけない気がする。
「私も実弥くんと同じようなものよ。家族もいないし、いつ居なくなるかわからない。だから今までも、これからも、この子を飼う事はできないのよ」
「…」
「…そうだ。だったら、ふたりで面倒を見ない?この子が心を開いて甘えられるのは私か実弥くんだけ…それなのに、このままこの子を放っておくなんてできないでしょう?よく此処へは来ていた様だし」
普段なら、絶対にこんな事言わない。
他人に興味なんて全く湧かなかったし どうだってよかった。
でも 何故だろう。
親犬を埋葬してくれたのが彼だったから?
子犬が彼に懐いていたから?
境遇が少し似ていたから?
理由はわからない。
でも、彼がどんな人なのか興味がある。
「どちらともが居なくなったらどうするつもりだァ」
「大丈夫よ、どちらかが居なくなったとしてもきっとどちらかは居るはず」
「…俺はやらね「決まりね!」