第2章 其の弐
「なんだァ、テメェはァ」
大して動じる事もなく、ゆっくりとこちらへ振り返り、ぎろりとこちらを睨む三白眼は 血走っている。
そして傷は腕のみならず、顔までもが傷だらけであった。
無惨とはまた異なるが、何とも言えない威圧感を纏っていて、びくりと肩が震え手を掴む力が弱まってしまう。
「!…そ、それ…」
その威圧感に圧倒されながらも、ふと掴んでいない方の手元へと視線をやると その手には握り飯が。
そして、その握り飯はどうやら子犬へと差し出されている様だった。
その証拠に、子犬はパタパタと尻尾を振りながら その握り飯に食らいついている。
思わず目を見開いてしまう。
「餌を、あげてくれていたの…?」
全く想像していなかった光景に拍子抜けし 男の手を掴んでいた手から力が抜け、だらりと垂れ下がる。
信じられない、というように男の目をじっと見つめ、ぽつりと呟いた。
男は、じぃと見つめられ居心地が悪いのか、それとも子犬に餌をやっているのを見られてバツが悪いのか。
どちらかはわからないが、何か言葉を発するわけでもなく私からふいと目を逸らし、再び子犬の方へと視線をやる。
…一目見ればすぐにわかる。
子犬がこの男に懐いているという事が。
親犬の一件があってからというものの、この子犬は私以外の人間にいつもひどく威嚇していた。
こんなに懐いているところなんて、一度も見た事がない。
外見で判断することなかれ、とは正しくこの事だろう。
もしかして、親犬を埋葬したのって…
いや…そんなわけない。でも…