第2章 其の弐
昨日までは元気いっぱいで、私の回りを駆け回っていたのに。
名前をつけて 小屋を用意して…
飼おうかと思った事もあった。
だけど、これ以上大切なものを失うのが嫌で 怖くて もう何にも深入りしたくなくて必要以上に可愛がる事はしなかった。
その代わりと言ってはなんだが、ここに来る間せめてご飯だけでもと思って毎日用意していた。
でも。
こんな事になるんだったら、私が飼い主になって もっと撫でてやって 抱いてやって 可愛がってやればよかった。
生きているのか 怪我をしているのか 死んだのか 殺されたのか そのままどこかへ捨てられてしまったのか、何もわからない。
死んでしまっていたとしても、これじゃあ親犬と同じところに埋葬してやる事もできない。
深く俯きながらとぼとぼと 箒を投げ捨てた場所へと戻りながらぐるぐるとそんな事ばかりが頭の中を駆け巡る。
自分が思っていた以上に自分の心は動揺していて、もう既にあの子犬は大きな存在になっていたのだと、今気が付いた。
目頭が熱くなり、鼻の奥がつんと痛む。
じわじわと目の淵に涙が溜まっていくのがわかった。
(泣くな、泣くな…何もしてやれなかった私なんかが、泣く権利なんてない…)