第2章 其の弐
"折を見て迎えに行ってやろう"
あの言葉から、随分と時が流れた。
もう初夏になろうとしている。
月に数回と私に会いにきていたあの男も、最近めっきり顔を見せない。
私を逃さない為の嘘だったのでは…と思ったりもしたが、あの男の事だ。
そんな回り諄い事はしないだろう。
一体いつになれば鬼に会わせてくれるのか…そんな事を毎日考えながら、私は相変わらず暇を持て余していた。
そんな今日も、又いつもと同じように境内の掃除を始めようと 箒を片手に、そしてもう片方の手には薄めた味噌汁を白米にかけたものが入っている皿を持って 外へと出た。
燦々と照りつける太陽が眩しくて 片手を空に翳しながら皿をことりを地面に置き、辺りをきょろきょろと見渡す。
(あの子犬、いないな…)
いつも必ずこの境内にいて、私が出てくれば尻尾を振り嬉しそうに駆け寄って来る"あの"子犬。
地面に置いた皿の中のご飯は子犬にあげるつもりのものだった。
それなのに、今日は姿が見えない。
あれから毎日いない事なんてなかったのに。
胸がざわざわと嫌な音を立てる。
何かあったのだろうか。もしかして、親犬を殺した人を見つけ仇を討とうとして 殺されてしまった…?
そんな嫌な事ばかりが頭を過ぎった。
居ても立ってもいれず 箒を投げ出し、腰を屈めて隅の方や草陰の辺りも隈無く探したが、やはり子犬の姿は見当たらなかった。