第1章 其の壱
「何故不快なのですか?」
「…私は"変化"が嫌いだ。」
「永く生きていればいるほど、変化というものは付き物でしょう?」
私の事なんて、殺そうと思えばその指一本で殺せてしまうのだろう。
それ程に強い鬼であるはずなのに、やっぱり私にはこの男、無惨が何故だか幼子の様に見えてしまう。
頬に当てた手はそのままに、親指のみで頬を撫でる。
それはまるで、幼子にするかの様に。
無惨は立ち尽くす様に動かなかった。
「変化は劣化であり衰え…私はいつでもどんな時でも変わらず完璧でありたい。変化など私には必要ない」
「…"完璧"なんて、存在するのでしょうか。」
「…」
「私は"変化"が必ずしも悪い事とは思えません。色んな物を見て 触れて 感じて。そして変化し、強くなれる事もあります。」
生きているという事は 日々変化する事だと、私は思う。
この世に生を亨け 死を迎えるまで、何も変化しない人など存在しないだろう。
今私が此処に存在しているという事も、古から変化を繰り返された証。
変化が劣化や衰えという事も勿論あるだろうが、必ずしもそうだとは思わない。
それに、完璧なものなんてこの世に何一つ有りはしない。
それなのに。
無惨は、何故ここまで完璧というものに拘るのか、変化を嫌うのか。
「例え太陽を克服できたとしても…きっと貴方はまた他の何かを求める。無い物強請りというものです。完璧でなくとも良いじゃありませんか」