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ふたりだけのせかい

第1章 其の壱









「それなら、私は貴方のお傍から離れます。」

「…なんだと?もう一度言ってみろ。」



やっと顔を上げ 目を合わせたかと思えば、その紅梅色の瞳にぎろりと睨み付けられ ぞわりと鳥肌が立つ。
胸がざわざわと何とも言えない不穏な音を立てていた。



これが、何千年前から生き永らえ 何千人という人間を殺してきた、鬼の始祖……
今までも頭では理解していたつもりだったが、改めて この男は恐ろしい鬼なのだと実感した。





「私が今此処にいる理由…それは鬼狩りに復讐する、ただそれだけ。貴方も知っているでしょう?鬼を知るというのも、復讐の為の過程。それが出来ないというのであれば、私は貴方の傍から去り ひとりで自分の為すべき事を為します。」

「…そうか、よくわかった。お前は余程私に殺されたいらしい。」




暫くの沈黙の後 地を這うような低い声でそう言いながらこちらへと歩み寄ってくる。

もう自分には失うものもなければ"死"を恐れる訳でもない為に、怖いものなどないと思っていたが、この男の威圧感を目の前にすると どくどくと心臓が早く脈打ち、恐怖を感じているのだと嫌でもわかってしまう。




「っ…」




目の前で無惨が止まったと思えば、間髪入れずに両手首をぎりぎりと物凄い力で掴まれ、すぐそばの壁へと押さえ込まれてしまう。
その勢いで強く体を壁に打ちつけ 鈍い痛みが走り、眉間に皺が寄る。



今こうして怒りを露わにしている無惨本人も鬼で、鬼を増やし続けているのも無惨なのに。
一体なんだというのか。
どうしてここまで私が鬼と関わる事を嫌がるのか…全くわからない。




「今詫びれば許してやろう」

「…私を恐怖で支配しようとしても無駄ですよ」




未だ強く掴まれたままの手首の痛みを耐えるように、恐怖を抑え込むように、きっと睨み付ける。











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