第1章 其の壱
「それはまだわかりません…。でも、鬼について貴方から聞いた事しか知らないまま、自分で知ろうともしないまま、鬼狩りに復讐ができたとして。…それでいいとは思えないのです。」
「人間が鬼と会えばどうなる。喰われて終いだ。お前は喰われたいのか」
「…貴方が鬼達に私の事を伝えていると、そう以前言っていたでしょう?」
「…」
真っ直ぐに無惨を見つめながらはっきりとした口調でそう伝えるが、無惨はこちらを見ようとしない。
段々と無惨の機嫌が損なわれていくのが手に取るようにわかる。
やはり、無惨は私が鬼について知る事を 関わる事を、よく思っていない。
どういう意味かはわからないが、"鬼にしたくない"と言っていたし…
でも、私も引くわけにはいかない。
今私が引いてしまえば、次説得することはもっと難しいものになるだろう。
「貴方は、もし私が 鬼狩りに復讐する為に力をつけたい。だから鬼になりたいと…そう言ったらどうしますか?血を、与えてくれますか?」
「…くだらぬ事を言うな。お前は私を怒らせたいのか?」
少し俯いた無惨の額に、ぴきぴきと青筋が浮かびあがる。
何とも言えない威圧感に、ごくりと喉を鳴らす。
背中に一筋の汗が流れるのがわかった。
ここまで私に対して怒りの感情を露わにするのは初めての事かもしれない。
「いいえ。私は真剣に言っております。鬼と会う事が出来ないのであれば…私が鬼になれば、自らの身を挺して鬼とはどのようなものなのか 知る事ができるでしょう?」
「お前の様な弱きものに私は血を与えない、鬼になどしない。すぐに死ぬ事が目に見えている」