• テキストサイズ

鬼滅の刃◆短編【R18】

第9章 前夜《鱗滝》




「安心しろ、お前は強くなった」

少女は脚を折り曲げて身体を小さくして男の話に耳を傾ける。

「これまで諦めずに、よく頑張ったな」

男の掌が少女の頭に乗る。
男は厳しかった。けれども彼が本当は優しい人で、育手と言う立場から厳しいのだと子供達は皆解っているのだ。

「俺はもう寝るぞ」

ポンと頭に乗せられた掌に力が込められて、それが離れて行く。
そしてその男は立ち上がった。

「鱗滝さんっ」

扉の目の前まで来た男がぴたりと止まる。

「…何だ」

「…それだけですか?」

男を追いかけて立ち上がった少女は、力無く呟く。

「今日が最後なのに…」

「何を言っている…お前が選別に受かった後だって、此処に会いに来ようと思えば会いに来れるだろう」

「っ、そうじゃなくて…」

未だ背を向けたままの男の背中を見つめて、羽織の裾をきゅっと握った。
言いたい事は山ほどある筈なのに、言葉にならない。

「鱗滝さん…」

此処が運命の分かれ道だ。
明日、私は選別へと向かう。
命を落とすか、鬼殺隊になるかのどちらかだ。

どちらにせよ
今夜が最後なのだ。

何年も共に過ごしてきたこの男と、もう一緒には居られない。

「鱗滝さん…」

少女が見つめる先で、ゆっくりとその男が降り返った。

/ 75ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp