第9章 前夜《鱗滝》
「…んっ」
唇をぬるりと熱い舌で舐められてびくりと身体を強張らせた。
もっと口を開けろとばかりに顎を男の親指が押して、口を開けさせられて熱い舌が深く入り込んできた。
歯列をゆっくりとなぞったかと思えば、行き場を無くして奥に引っ込めていた舌を絡め取られる。
「ふ、…っ」
どうやったらこの狭い場所で舌がそんなに動くのか、そう思う程に男の舌が咥内を蹂躙し、二人の唾液が溶け合い卑猥な音を鳴らした。
それが頭蓋骨に響くから、脳味噌がじんわりと溶け出してしまいそうだと思った。
上顎を舌でなぞられて、男の指が耳朶に触れる。
皮の固くなった男の指にさわさわと外側をなぞられて内側へと続く穴の中へと指を入れられて、身体はびくびくと痙攣を繰り返した。
じゅう、と舌を思い切り吸われて、その痛みさえも甘いと感じてしまうのだ。
「は、ぁ…、は…」
やっとの事で離れた唇を離されて、酸素を求めて肩で呼吸を繰り返す。
「…これで満足か」
掠れた低い声がそう囁いて、少女の唇の淵に垂れた唾液を親指で拭って、男の温かさが離れて行く。
名残惜しさを感じながらその男を見上げれば、その奥深い瞳に宿るものに心臓がどくりと音を鳴らした。
熱の宿るその瞳
それは師としてのそれでは無い
それが肉欲か、それとも何なのか分からない
東の空と遠くに見える木々の境目がほんのりと淡い黄色に変わる。
きっと夜明けはすぐそこだ。
けれども、どうか今だけは
その瞳に私を映して
end.