第6章 悪戯 【R18】《煉獄》
しんと静まり帰った夜更け。
廊下を物音と立てない様に静かに歩いて、襖を開ける。
部屋の中心に引かれた布団に近付いて
すうすうと寝息を立てて、気持ち良さそうに寝ているこの部屋の主を覗き込んで、その布団に潜り込んだ。
「ん…みさ」
うっすらと開けられた瞳は、私を確認すると腕の中に私を招き入れる。
久しぶりに任務から帰った彼を私は家で待っていた。
帰宅の戸に着いた彼は酔っていて、側には同じく酔っている柱の面々を引き連れて帰ってきたのである。
聞けば昼食を一緒に食べて、それから昼間からお酒を飲み出して、それでもまだ飲み足りない、丁度いいから彼と最近一緒に暮らし出した私を見たいとかなんとか誰かが言い出して、此処に顔を見に来たらしい。
お察しの通り、この家でも更に宴は続けられ、とっぷりと夜は更けた。
「皆は、もう寝たのか?」
「はい、男性陣は客間へ、女性陣は私の部屋にとりあえず寝てもらいましたけど」
「いきなり招き入れてすまなかったな…」
「大丈夫ですよ。これも炎柱様の人望故だと思ってます」
彼の指がさらりと髪をすく。
「…明日は、1日2人でゆっくりしよう」
再びうとうととし始めた彼は、程なく眠りに付く。
その様子を彼の腕の中で眺めていた私は
徐に、彼のすっと通った鼻筋を摘まむ。
暫く摘まんでいると、彼は眉間に皺を寄せて身動ぎをする。
ぱっと指を離せば、眉間の皺は伸ばされて再びすやすやと寝息を立てた。
「ふふ…」
彼の首筋に頬を擦り寄せる。
久しぶりに感じる彼の温もりと匂い、それに微かに混ざるアルコールの匂い。
「やっと会えるって楽しみにしてたのに、なぁ」
君は違ったのかな?
一緒に暮らしているとは言え、ずっと一緒に居れる訳では無い。
「…普通、真っ先に恋人の元に来るんじゃないのかな?」
人に慕われる彼の事だから、仕方無いけれど。
私もそんな彼に惹かれたのだから。
なんて、困らせるだけだと分かっているから。
面と向かっては言えない呟きは深い闇の中に消えて行く。