第5章 この手を掴んだら、最後【R18】《不死川実弥》
息が掛かる位の距離に彼の顔がある。
顔に身体中の熱が集まったように熱くなる。
きっと今の私は真っ赤だろう。
今が夜で良かったと一瞬思ったが、そんなこと考えている場合では無かった。
視線を外そうにも、顎を固定されて視線をはずせない。
「不死川さ…」
「…俺が、怖いか?」
見つめ返すしか無いこの状況で
紫色の瞳の中が月の光で輝く。
それは驚く程に綺麗だ。
「………」
そう、怖い訳では無い。
怖いのは
この瞳に捕らわれそうな自分、だ。
見た目は怖くて、少し乱暴だけれど
いつだって優しく手を差し出してくれたこの人がいつの間にか気になって仕方が無かった。
「…怖くない、です」
彼の浴衣の袖口をキュと掴んで引っ張れば
彼の身体がピクリと動いた。
もう逃げまいと見つめ返せば
珍しく視線を伏せた銀色の睫毛が、月の光に照らされてきらきらと光る。
顎の拘束を解かれたと思ったら
左肩に頭を乗せられて、首筋に髪が触りくすぐったさに身動ぎをした。
少しはだけた胸元に彼の吐息が掛かって、こんなに近くに彼が居る事を思い知らされて。
五月蝿く鳴り出した心臓の音は、きっと彼にも伝わっているだろう。
「…怖くないですよ?」
念押しのようにもう一度同じ言葉を口にすれば、左肩が軽くなり、視界に彼の顔が映る。
「分かった、分かった…」
いつもとは違う
ひどく真面目な彼の表情に、胸がドクリと音を立てた。
「…今日はこれくらいで勘弁してやらァ」
そう言っていつもの様に頭に手を乗せて
彼が微笑む。
「お前も寝ろ、…俺ももう寝る」
頭から外された彼の手の指先が頬をかすめるように髪を一束すくい取ってゆっくりと私から離れて行く。
それを名残惜しんでいる様に感じる私は、自惚れているのだろうか?
いつだって私の様子を見ながら
私が本気で嫌だと思うギリギリのラインまで触れて離れて行く彼は
私が、この手を取ったら
どうする気でいるのか
ああ、今はそんな御託を並べてみても仕方がない。
頭で結論を出すより先に私のこの指が身体で感じたままに動いて、彼の離れて行く指先を掴んだ。
「…嫌です」
驚いて目を見開いた紫色の瞳が揺れる。
こんな彼の顔を見たのは初めてかも知れない。
「今離れるなんて…嫌、です…」
今はただ
この気持ちに従うまで、だ