第5章 この手を掴んだら、最後【R18】《不死川実弥》
目を開ければいつもと違う天井が目に入る。
もう眠ってしまえと布団に入ったら、本当に眠ってしまったらしい。
不死川さんも寝てしまったのだろうか?
気になってゆっくりと襖を開ける。
居間の先の閉められた障子越しに明かりが揺らめく。
その明かりに誘われるように障子をゆっくりと開ければそこは縁側だった。
縁側から広がる庭の先には、一本の桜の木があり花びらが散っていた。
月の光に照らされた桜の美しさに思わず息を飲む。
「…綺麗ですね」
「こんな処で夜桜見ながら酒を飲めるなんて乙だよなァ」
縁側に座っていた彼は、私の気配を感じていたのだろう特に驚きもせず、桜を眺めたまま御猪口を口に付けた。
桜に吸い寄せられるように彼の座った縁側に近付いて横に座る。
「寝てたんじゃないのか?」
「…起きてしまったんです」
二人の間にあるお盆の上の徳利を手に取る。
「不死川さん。御猪口が空いてますよ」
そう声を掛ければ彼は一度こちらを見て、自分の持っていた御猪口を見つめた。
ゆっくりとこちらに御猪口が差し出されて、その中にお酒を注ぎ込む。
「…お前、いくつになった?」
いつもより落ち着いた声音に、
どうしようも無く胸がざわめいた。
「18になりました」
「そうか…初めて会った時はあんなに幼なかったのになァ、時の流れは速いな」
「言っておきますけどその分、不死川さんも歳取ってますからね」
「そりゃそうだなァ」
悲鳴嶼さんの所に弟子入りして、初めて彼を見たのは15歳の時だった。
「不死川さんたら目付き悪いし全身傷だらけだし、最初は怖くて怖くて…」
「お前、俺と目が合うだけで借りてきた猫みたいに固まってて面白かったなァ」
彼は楽しそうに笑った。
そう、彼は面白がって初めて会ってから今日まで私をからかい続けているのだ。
「まあ今もあんまり変わらないけどな」
「…それは、不死川さんがからかうからです」
昔は只怖かったから苦手だった。
けど今は、本当は優しいのも面倒見が良いのも知っている。
「今も、目も合わせないしなァ?」
「…不死川さんと目を合わせるの、苦手なんです」
「ふぅん…」
彼の伸ばされた指が顎に触れて下を向いていた視線が上に上がる。
その紫色の瞳がこちらを見つめて揺らめく。