第2章 夢を見ていたい。
まさか、頭突きとは。
「うわあああ!音!頭骨割れてない!?」
ガンッという岩と岩がぶつかったような音、確かに割れているかもしれないと心配になる。
「ほら、暴れるから…。伊之助、大丈夫?」
凛が顔を覗き込むと同時に、ふらっとよろめいた伊之助の頭から猪の被り物が落ちる。
「あっ」
凛はこの瞬間が好きであった。
いつも見えない表情が浮かんでいる、そこに新鮮さを感じていたのかもしれない。
「何だコラ…俺の顔に文句でもあんのか…!?凛までこっちじろじろ見てんじゃねえ!」
あります、あります、大ありです。
なんで私よりも可愛い顔が出てくるのでしょうか。
そう言いたいと思う凛なんて知らず、2人はまた言い合いを始めていた。
「…名前はふんどしに書いてあるけどな」
しーん、と静かになったかと思うと、ドスッと伊之助が倒れた。
「うわっ倒れた!死んだ?死んだ?」
「死んでない、多分脳震盪だ。俺が力一杯頭突きしたから…」
「いーよいーよ、こいつはそうでもしないと黙んないからね。自業自得だよばーか」
そう言って、凛は伊之助の頬をむにっと掴んだ。
そして額の血を拭いてあげ、自分の羽織を脱いで伊之助に被せる。
「そんな事言ってても、やっぱり見捨てはしない…優しいんですね。」
「そりゃあ炭治郎、女の子だもん!こんな猪がこんな可愛い女の子と仲良しなんて…キイイイイィィィ!!!」
「放っておいたら野生の猪になりそうだもん」
凛はぷいっと顔を背けた。
照れ隠しであり、なんだかんだいって放っておけないんだろうなと全員が感じた。