第26章 他人の惚気話は無駄に長く感じる[杏子side]
「というか、気になるなら直接話せばいいじゃないですか。結衣さんに会いたいなら副長には私が話を通しますよ?」
「いや、今俺が行っても慰めの言葉しか掛けてやれねェからよ…だがあいつはきっとそんな言葉が欲しいわけじゃねーだろ。それに…あいつの隣にはいつも頼れる番犬がいるからねェ」
番犬…って沖田さんのこと?
「でも…私は今の結衣さんにはあなたみたいな人も必要だと思います」
「あ?」
「私も真選組に入る前は父上に認められたい一心で、それだけを見て日々剣術を磨いてきました。でもあの日…」
– 倉本さん、すごいね!君の腕なら1番隊に入るのも夢じゃないよ!–
「山崎さんと出会って、まるで自分のことのように笑って言ってくれたその一言が本当に嬉しくて…」
この人の笑顔を守りたい、この人のために生きたい
そう思う気持ちがどんどん強くなった。
「山崎さんは私にとって力をくれた…かけがえのない大事な人なんです」
自身の胸に手を当て、そっと目を瞑る
そんな私に銀さんは少し考える素振りを見せると、思い切ったように私を指さした
「え…っと、あのもしかして杏子ちゃんってジミーくんの事…?」
「あれ、言ってませんでしたっけ?」
「言ってねーよ、初耳だわ!!」
しれっと答える私に銀さんがツッコミをいれる
「まぁ、振られちゃったんですけどね」
「オイイイイ!何一丁前に女振るようになってんだあのチェリーボーイ!!?」
「あの、山崎さんを悪く言うのはやめてくださいよ」
「それでも庇えるお前もなんなの?!」
終始叫んでばかりの銀さんをよそに私は目の前の餡蜜を口に含んだ
「だって振られるってわかってましたから」
「…じゃあなんでお前、」
「伝えたかったんです!」
「!」
「私たちみたいにいつ自分が死ぬかわからない状況の人間は伝えられるうちに伝えなきゃってそう思ったんです」
ー 倉本さん、俺…君の気持ちには応えられないよ –
– …。–
– 好きな子がいるんだ…–
「まぁ、タイミングは間違えちゃいましたけど…ね」
「…」
「でも後悔はしてませんよ。この気持ちに嘘はないですし
実はまだ諦めてませんから!」
言いながら笑うと銀さんはそっと私の頭に手を乗せた
「一途だな…お前」
微笑む彼の言葉に私はその時何故だか目頭が熱くなった