第26章 他人の惚気話は無駄に長く感じる[杏子side]
場所は変わって縁側に2人して腰掛け、買ってきた餡蜜を頬張る
『はぁ、やっぱ疲れた時には甘いものが一番だよね!』
「いや結衣さんはさっきまで寝てましたよね?」
「でも元気そうで安心しました」
『え?』
「局長達から母君様のこと聞いて…その、落ち込んでるんじゃないかって…。あっ!けど平気なわけはないですよね」
上手く言葉が出て来ず、ぎこちなく喋る私を結衣さんは目を丸くして見つめる
『ありがとう、心配してくれて』
「えっ…」
そう言って優しく微笑むと結衣さんはゆっくりと咥えていた串を皿の上に置いた
『母上のことは突然だったから驚きもしたし…悲しかったよ。縛られるのが嫌で、守られてるだけが嫌で自分から家を離れた癖に…いざとなったら誰かの力を借りなきゃ何もできない自分が凄く情け無くなった』
「…。」
『でも、ここで私が止まってしまったら…背中を押してくれた母上や死んだ仲間にそれこそ合わせる顔が無くなっちゃうと思うんだ。勿論忘れるなんてことは出来ないけど…大切な人達を守りたい想いはこれから先も絶対に変わることはないと思う…』
言いながら少し涙ぐむ彼女は空を見上げ、深く息を吸い込んだ
『だからね、私…胸を張って生きるよ…』
「…」
結衣さんは強い…。
それが物理的な強さではなくとも
大切な人を失いながらも誰かの為に戦い続けようとするその想いが
彼女の本当の強さなのかもしれない。
結衣さんの言葉に頷き、餡蜜を口に含んだ
『ところで杏子ちゃん、昨日のことで…ちょっと聞きたいことがあるんだけど』
「え?」
昨日のこと…?って、沖田さんとの任務のこと?
次の瞬間、私は再び昨日のことを思い出した
ま、まさか遊園地で勝手に帰ったこと怒ってるんじゃ!?
山崎さんへの告白やらで忘れてたけど、結局私あの後2人を置いて先に帰っちゃったんだ!
「あ、あのですね!これには深海より深い訳がありまして…」
冷汗を掻きながら必死に言い訳を話していると結衣さんは少し俯いて顔を徐々に赤らめていく
(…あれ?)
『お、沖田隊長の…ことでそ、相談があって』
「へ?」
変わらない想いの中でも
『…』
「餡蜜…もっと食べますか?」
その気持ちが動き始める日もそう遠くはないのかもしれない。