第26章 他人の惚気話は無駄に長く感じる[杏子side]
食堂を出て屯所の門に向かう途中、私は歩く足を止め次の瞬間その場に勢いよく膝をついた
だ、だめだぁ…!
さっきのは明らかに不自然過ぎた…!
いや気まずくなるのはわかってたんだけど、出来るだけ本人の前では顔に出さないようにしようって思ってたのに…。
やっぱり…
ー 気をつけてね、倉本さん ー
「無理だよ…」
目頭が熱くなるのを必死に抑え、パチンッと自身の両頬を叩いた
「泣いちゃだめ、私!どんな時でもポジティブでいるのが私のモットーなんだから!」
草履を履き、刀を腰に差して私は勢いよく門を開けた
そう、恋は障害あってこそ燃えるものなのよ!
それにこの地球…いや宇宙にはきっと私よりももっともっと辛い恋をしている人も大勢いるはず!
例えば…。
考えながら屯所の前の通りを歩いていると、前方から歩いて来た人物とふと目が合った
「あ、」
その人物は私を指差し一瞬その場に固まった
「あなたは確か万事屋の…」
そうだ、確か結衣さんの知り合いの…銀さんだ!
「お前は確か餡…」
「それではごきげんよう」
「冗談だって!こっちの"杏子"ちゃん、だろ?」
引き返す私に慌てて訂正を入れる銀さんを呆れながら見つめる
まったく…同じ読み方だからバレないとか思ってるんだろうけどイントネーションですぐにわかるのよ!
「それで…こんなところで何してるんですか?」
「いや別に、パチンコした帰りにたまたま通りかかっただけだよ」
「…へぇ…」
怠そうに頭を掻きながら私から視線を逸らす銀さん
そう言えば前に結衣さんが彼のことを尊敬してるって言ってたけど、正直面倒くさそうだし…私はあんまり関わりたくないなぁって思ってたんだよね…。
「それじゃ、私は用事があるので失礼しますね」
そう言って彼の横を通り過ぎようとした次の瞬間、
「えっ!?」
いきなり腕を掴まれた為、慌ててその場に振り向いた
「…らね…?」
「え?…」
「お前結衣のこと…何か知らねェ?」
さっきまでの気の抜けた表情からは打って変わって顔を赤らめ遠慮がちに話す銀さんに思わず目を見開いた
あ…そっか、この人…。
ー 銀さんは私の憧れなの! ー
この人も。
「私と同種ですね…」
「誰が同種だ!オイ、何で哀れみの目向けてんだオイ!」