第26章 他人の惚気話は無駄に長く感じる[杏子side]
「あの、ところで結衣さんはまだ来てないんですか?」
「あぁ、今日はまだ見てねェな」
「そうですか…」
「母君を亡くしたばかりだ…しばらくは部屋に籠るのも無理ねェさ」
そう言ってサイコロを転がし、駒を進める原田隊長の言葉に隊士たちは表情を硬くする
昨日、局長から会議室に呼び出された私達はそこで結衣さんの母君様が亡くなったと知らされた
結衣さんの母君様が病気であると知らなかった私は局長や副長の言葉にただただ驚くばかりだったけど、1番隊の人達はもちろん、原田隊長や斎藤さんも…
山崎さんも、
その時はみんな険しい顔でただ黙って局長の話に耳を傾けていた
そして数時間後、例の任務を終え帰ってきた結衣さんは沖田さんに背負われ疲れたように眠っていた
目もとの腫れと涙の跡が彼女に突き付けた辛い現実を物語る
「…」
結局その後、2人には何も声を掛けられないまま時間だけが過ぎていった
あの時…私は2人に一体何て声を掛けるのが正解だったんだろう。
今まで結衣さんと接してきて、それだけで勝手に彼女の全てを理解した気でいた。
彼女の過去も隊士みんなとの関係も知りもしないで…新米隊士のくせに勝手にわかったようなフリをしてたんだ。
「おはよう」
だからあなた(山崎)のことも
「お…はようございます」
わかったような気でいてしまったのかもしれない。
食堂へ来た山崎さんは人生双六で盛り上がる隊士達の輪を覗き、興味深そうに目を輝かせる
そんな彼と一緒にいるのが気まずくなった私は食べかけの昼食のお盆を持ち、そっと席を立った
「オイ倉本、どこか行くのか?」
「あ、えっと私…ちょっと外に…」
「外って…お前今日はオフの日だろ?暇ならみんなで人生双六やろうぜ!」
「やりたい…のは山々なんですけど、お天気も良いことですし散歩でもしてこようかなって思います」
そう言って苦笑いを浮かべる私に山崎さんが振り向き言った
「倉本さん、」
「?」
「…気をつけてね」
そう言って優しく微笑む彼に私も精一杯の笑顔で答える
「はい、
行ってきますね」