第26章 他人の惚気話は無駄に長く感じる[杏子side]
食堂に入ると、席は思った以上にガラッとしていて、隊士のみんなは何故か隅の方に固まって座っていた
「おはようございます…」
隊士たちの輪の中で一際目立つ外見の人物に話しかける
「おはようございます、原田隊長」
「…。」
「原田隊長?」
しかし、いくら待っても返事が返ってくる様子はない
どうしたんだろう…よほど何か深刻な話でもしてるのかな。
すると突然それまで神妙な顔つきだった原田隊長が勢いよく立ち上がり机を叩いた
「いくぞテメェら!!」
そう言って次の瞬間、原田隊長が投げた小さな物体に周りにいた隊士全員が注目する
「…さ、サイコロ?」
コロコロと転がり出た目に応じて原田隊長は自身の駒を進める
「よっしゃー!"超人気俳優になって億万長者になる"だってよ!この勝負もらったぜ!」
まさかの人生双六!!
全力でガッツポーズをキメる原田隊長とそれを見て悔しがる隊士たちに拍子抜けし、肩を落とした
昼間から何をやってるのかと思えばこの人達は…。
「あの…また急にどうして人生双六なんてしてるんですか」
渋々みんなの輪に入り、昼食の乗ったお盆をテーブルに置くと私に気づいた原田隊長がドヤ顔混じりで口を開いた
「いいだろコレ、この間巡回中に迷子のガキを助けたらその子の親がお礼にってくれたんだよ」
「いやおもちゃ買ってもらった子どもですか!無邪気に喜ぶものじゃないでしょう…歳を考えてください」
「何言ってんだ、こういうのはいくつになろうが関係無くふとした時にやりたくなるモンなんだよ。
"これは子どもの遊びだ"なんて決めつける考え方はもう古臭いってな!」
そう言って再びサイコロを手に取る原田隊長を見つめる
「決めつけ…か」
確かに、絶対こうだなんて決めつけは良くないのかもしれない。
私だってこの歳になってもまだケーキやお菓子を好んで食べるし、
ー 俺は山崎退、これからよろしくね倉本さん ー
好きなものは…いつまで経っても好きなまま…だし。
俯く私にそばにいた隊士の1人が不思議そうに首を傾げた
「どうかしたのか、倉本」
「あっ、いえ。…確かに人生双六も面白そうだなぁと思って…」
もしこの場に結衣さんがいたらきっと進んで"やりたい"って思うんだろうなぁ。
そんな事を考えながら、私はふと辺りを見渡し首を傾げた
