第2章 損する探索はなるべくしたくない。何故なら彼は…
そう言って舌打ちするチルチャックも手放しで明朗快活とは言えないように思える。
「きっとチルチャックみたいな人が物凄く楽しんで作ったんだね、ここ」
そんなアナタが大好きよ。
「あ?」
想いを込めて言ったのに、チルチャックからまたジロリと睨まれる。言葉を選び間違えた。
「あの、そうじゃなくてホラ…。えーと、あー…。…何かごめんなさい…。ちッくしゅ…ッ」
「ぅわバカッ、人に向かってくしゃみすんなよ!」
「あ、ごめ…ちッくしょッん…ッ!」
「…何だその変なくしゃみ。大体アニウ、お前何時までびしょ濡れでいる気だ?チビでも魔術師なんだろ?パパッと乾かせよ、魔術で」
「魔術?」
「魔術」
「ああ!その手があったか!」
「…いくら子供でもダンジョンで間抜けを晒すのは駄目だぞ。お前もう潜るの止めとけ」
「子供扱いしないでよ」
「は?子供が何言ってんだ。たく、そもそもこんなチビを探索に出すなって話だよ。どうなってるんだ、お前のうちは。親の顔が見てみたいもんだ」
見たらびっくりすると思うわ。
「私はそんなに子供じゃありません」
「お前どう見ても十二三だろ。子供じゃないか。それともトールマンはお前くらいで成人するのか?違うだろ?」
「違うけれども!」
「だろうが」
「く…っ」
悔しいけれど言い返せない。言い返してはいけない。
仕方ない。チルチャックの袖を掴んで上目遣いする。
「私、そんなに役に立たない?」
う、という顔をして、チルチャックは袖を掴まれた腕をぐいと上げた。いやいや、離さないよ。この程度の拒絶で突っぱねられる私じゃない。
「そんなに駄目なのかなぁ」
厭がるチルチャックをじっと見て、ちょっとばかり目を潤ませてみる。
子供みたいなチルチャックは私と目線がほぼ一緒。上目遣いもほんの少し上を向けば間に合う。本当はもっと盛大な上目遣いを披露したいのに、やり過ぎると他人の頭上のあらぬものを凝視している人みたいになってしまう。除霊でも始めるのかとぎょっとされるから、微調整が難しい。
「駄目だろ。俺が親ならこんな鈍くさをダンジョンに潜らせて他人に迷惑をかけるような真似は絶対させないぞ」
頑張る私にチルチャックはにべもない。
「立ち入ったことは聞かないけどな」