第2章 損する探索はなるべくしたくない。何故なら彼は…
ダンジョンは階層が深くなる程そこに眠るものの価値も上がる。ここのダンジョンも浅層は目に付く財宝があらかた取り尽くされ、どのパーティーも出来るだけ深層目指してダンジョンに潜るようになっている。
今時浅層に潜るのは腕試しか、もしくは依頼があって何かしらの目的を果たしたいときに限られる。
大抵のパーティーが見逃す情報、ダンジョン自体の価値を探る為の探索で、財宝の上をいく何か大きな情報の欠片を拾い集める仕事。
「この広い広間にこれだけ罠を仕掛けられたら、通り抜ける以外のことになかなか頭がいかないのが普通なんだよ」
罠だらけの広間の中にある小部屋の存在なんて、先へ進むことばかり考えて探索していれば気付くようなものではないのに。よくよく目端の利く人がいたのだろう。
「一体何処の誰だ。余計なもん見付けやがって」
チルチャックが忌々しげに吐き捨てる。
「見付けたんなら見付けたで自分で潜れって話だ。島主に話を持ってったりするから余計なお鉢が回って来る。お陰でこっちはいい迷惑だぜ」
浅層へ潜る依頼自体そうあることではないが、合理的なチルチャックは報酬の額が決まっている浅層の依頼を嫌う。報酬は割高であっても高が知れているし、浅層では財宝や希少な魔物の部位などの余録にあやかることも少ない。その上目的を果たしたらすぐ地上に出なければならない。無駄足みたいなものだと言うのだ。
一理ある。
潜るからには得るものが多い深層を目指したいし、中途半端な浅層で用が済んでしまうと装備もするだけ無駄、かと言ってしない訳にもいかない。何だか損したような気になる。
勿論私はそんなことぜーんぜん思わない。浅層に潜るなら私の出番もある訳で、むしろ大歓迎の大喜び。ヤッホー。
「何がヤッホーだって?」
チルチャックがジロリと痛い視線を送って来たので、慌てて顔を引き締める。
いけない。隠しきれない喜びが撒け出てしまった。
気温は上がったとき同様、唐突に引いて行った。
私はずぶ濡れのままチルチャックの後を追って、広間の中程を歩いている。
次は右。それから左前。もう一度左に行って、右前。
チルチャックが密集する罠を巧みに避けるのを見習って、慎重に足を運ぶ。この広間は罠を踏まないようにするのではなく、罠のない足場を探して進まなければならない。
「この広間を作ったヤツはよっぽど陰湿なヤツだと思うね」