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子供魔術師 ーダンジョン飯ー

第2章 損する探索はなるべくしたくない。何故なら彼は…



上目遣いのおでこをパチンと軽く叩かれた。
うわ、今のもう一回!もう一回お願いします!

「差し迫った事情がないんなら臨時雇いの魔術師なんか止めちまえ。ダンジョンなんかに潜って危ない橋渡ってないで、子供は子供らしく年相応に気楽にしてりゃいんだよ」

私の手を当たり障りない所作でさりげなく除けてチルチャックは足元に注意深い目を向けた。
何の温度も感じられない当たり障りのなさが、露骨に避けられるより距離を感じさせるのは何故だろう。チルチャックがこっちをてんで相手にしていないことがよりはっきりわかってしまう。

「こんな下手すりゃ死んじまうようなとこにわざわざ来ることないだろ。お前それでなくてもすぐ怪我する間抜けだしな。何もない地上でもよく怪我してるじゃないか」

広間の壁を眺め渡してまた床に目を落とし、慎重に罠を見極めている。ここから小部屋に向かって道が逸れるのだろう。チルチャックのとる進路が左に寄り始めた。

「俺だって腐るほど金があるならこんな真似してないしな」

可愛い男の子が説教臭いことを言っている…ようにしか見えないだろう。大概の人には。
チルチャックは見かけによらず親父臭い。とは言うものの、私からすればそんなチルチャックは大人の男の人だ。それ以外の何者でもない。
チルチャックは口は悪くても良識的で、ぶっきらぼうで不器用だけどちゃんと優しい。大酒呑みで調子にのると親父ギャグが止まらないところが玉に瑕だけど、そこがまた愛おしい。ああ、愛おしい愛おしい。

「何だ?まだ暑いのかよ。鼻息が荒いぞ。大丈夫か?」

鼻息が荒い!?

何てことを言うのだ!
乙女に鼻息なんかない!あるのは薔薇の香りの吐息のみ!

鼻を押さえて真っ赤になった私に、チルチャックはいよいよ心配そうな目を向けて足を止めた。

「鼻血か?」

鼻血!?

馬鹿な!
乙女は鼻血なんか出さないのだ!出すのは…出すのは…えーと何だ?ほら、アレだ。恋に溺れて見境がつかなくなって撒け出る鼻息…て、結局鼻息か!駄目じゃないか!

「おい。ここで待ってるか?」

少し迷った挙げ句、仕方なさそうにチルチャックが提案した。
いやいや、いーや。まさかまさか。

「駄目。行く。何が居るかわからないし」

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