第1章 またわざと罠にかかってしまった。
「なお…治った!」
「よし!体を冷やせ!」
挙手して告げた途端チルチャックに尻を蹴り上げられて、私は勢い良く頭から水場に落ちた。蒸し暑さが消し飛んで息苦しさが襲って来る。
ガボガボと腕を振り回していたら、手をぱしっと掴まれた。
「暑がりならせめて泳げるようになれよ!お前のカナヅチは死活問題だぞ!?」
水から顔を出すやいなや早速毒づかれる。汗じゃなく水で霞んだ視界に、必死で踏ん張って引っ張ってくれているチルチャックが滲んで映った。
「お前本当はトールマンじゃなく水棲の魔物か何かなんじゃないのか」
水場の縁に手を着いた私を見届け、尻餅を着いたチルチャックが心底呆れたように咳き込む私を見る。
「少し気温が上がったくらいで脱水症状か熱中症になるなんておかしいぞ」
「私もそう思う」
けれどどうにもならない。別に虚弱体質でも何でもないのに、暑さに体が適応してくれないのだ。しかも何をどうしても泳げないカナヅチときた。こういう場合、非常に困る。気温と水に適応出来るようにとしたのも魔術師を目指した動機のひとつ。どっちも今のところどうにもなっていないけれども。
「でも寒さには凄く強い」
足のつかない水の深さを気にしないよう努めながら取り敢えず必死で強がると、チルチャックはますます呆れてしまった。
「寒さに強くたって今ここじゃ何の役にも立たねえだろ?」
「違う階層なら…」
「だから今ここじゃ何の役にも立たねえ話をするなっての!!」
舌打ちまでされて流石にちょっと凹む。意図してかける迷惑も気が咎めるけれど、どうしようもなくかける迷惑の居たたまれなさはまた格別だ。
「気温が下がるまで身動き出来ないな。これでファリンかマルシルがいりゃもうちょっと何とかしようもあるかも知れんが」
水辺利に腰を下ろして腕組みしたチルチャックに、ますます申し訳なさが募る。
「お前、暑さに弱いのとカナヅチを何とかしないと、この先何時まで経っても流れの臨時雇いのままだぞ。幾ら実力が中堅で便利が良くたってこれじゃ何処のパーティーにも入れて貰えないからな」
「わかってる。私だって何とかしようとは思ってる。これでも」
口をひん曲げて言ったら、チルチャックは気まずそうな顔で腕組みを解いて、私の頭の上にポンと手をのせた。
「そりゃそうだよな。悪かったよ」