第1章 またわざと罠にかかってしまった。
子供相手に言い過ぎたと思ってるんだろう。確かに今ずぶ濡れで情けない顔をしている私は、さぞ痛々しくて幼気な様子をしているだろう。
極北のトールマンは東方系のトールマンに似て、大人びて見える西方系や東方系より幼く見えがちだ。あまり嬉しいことではない。
チルチャックの手の重み分、ほんのちょっと体が沈んでいる。温かい重みにこのまま沈んでしまっても構わないような気になる。勿論、そういう気になるだけのことで、本気で魚人のいる辺りまで行きたい訳ではない。念の為。
乙女心はいいものだ。揚がる。
が、チルチャックはあっさり退けた。更に上がった気温に浮き出た汗を拭い、後ろ手をついて高い天井を見上げる。
「流石に俺も暑くなって来たな」
私のすぐ側で、靴を脱いで素足を水に突っ込む無頓着なチルチャックの様子に悲しくなる。
チルチャックの私へ向ける態度には、労りや気遣いがこもっていても、私の期待するような意味深な優しさはない。
「あっちが迎えに来てくれりゃ早いんだけど無理だろうな」
ハーフフットのチルチャックと、鈍くさくはあるが"トールマンにしては相当に"身の軽いアニウが適任と任された探索だけあって、広間の罠の密集具合はなかなかえげつない。先導なしに他のメンバーがここまで辿り着くのは難しいだろう。
今回私がファリンの代わりにメンバーに組まれたのは、ファリンの都合もあるがこの広間の中にある小部屋を探る為という意味合いも強いのだろうと思う。
マルシル同様鈍くさい私だが、身は軽い。"まだ若いから"というのもあるのだろうが、大したものだとリーダーのライオスやファリンは素直に褒めてくれる。が、これはあまり嬉しいことじゃない。魔法で唸らせてこその魔術師なのに、身軽さで褒められてちゃ世話ないじゃないか。
「その年でそれだけ魔術を使いこなせたら大したものよ。大人の中堅どころくらいには使えるもの。先が楽しみだわ。アニウ」
マルシルはこう言うけれどこれも全く嬉しくない。全く事実に則してないからだ。
情けない。