第3章 謎解きって無駄話みたいだと思う。
「押せッ!閉めるぞ!」
言われて小部屋の重い石造りの扉を体重をかけて押しこくる。
「頭を下げろ!顔を上げるな!」
のべつ幕なく飛んでくる矢は、トールマンかエルフを想定したもの、もしくはトールマンかエルフの仕掛けたものなのだろう。大体その連中の頭があると思しき高さに集中して注ぎ込んで来る。
ちょっと。これ、ハーフフットやドワーフなんかが相手だったらあんま意味ないんじゃない?狂乱の魔術師はトールマンかエルフってこと?
それにしても詰めが甘い。甘すぎる。
とは思うものの、時々狙いを外した矢がランダムにこっち目がけて飛んで来るから全然油断は出来ない。
ちょっとちょっと。意味がないどころか十分危ないじゃないの。
「つ…ッ」
頬っぺたを掠めた矢が皮膚を裂いた。生温かい血が垂れて口に入って、鉄臭い、と思った瞬間、扉が閉まった。
肩で息をしながら、ペタンと石床に座り込む。手が痛くて重い。力仕事は専門外なんだから、こういうイレギュラーは勘弁して欲しいわ。
頬の傷を肘で拭うと、べったり血が着いた。思ったより出血してる。
「油断したねえ」
声に力が入らない。
「無駄話なんかするんじゃなかったな」
息の上がったチルチャックの声が答える。
「無駄じゃないよ。ちゃんと開いたもん」
「結果オーライか。呑気なもんだな」
「またそういう言い方する…」
溜め息を吐いて傍らを見ると、皮手袋を外したチルチャックが丁度こっちに手を伸ばしたところだった。
「大丈夫か?」
傷口のちょっと上に、チルチャックの指の背が触れる。そっと触れてすぐ離れた細やかな触れ方に、チルチャックの気遣いや心配、ぶっきらぼうな優しさとか照れ屋なことろとか、色んなものが詰まっているのが感じられて、頭に血が上った。
「…だ…大、大丈夫…じゃ…ない…」
鼻血が出た。出たなんてもんじゃない。噴き出た。
「ぅわッ!」
「ひや、ひゃいひょうふ…」
鼻をつまんで上向いたら、チルチャックが首の後ろをとんとんと叩いてくれた。
「怪我してるのに何で鼻血なんか出してまた出血しなきゃならないんだよ、お前…。興奮してんのか」
「……」
誰が興奮させたと思ってるのさ。
もう、厭になる。もうちょっとスマートに好きでいられないものか。幾ら好きでもこりゃないよ。何でこう過剰反応しちゃうんだろう。