第3章 謎解きって無駄話みたいだと思う。
何てことするの!何てことするの!!
こ、このハート泥棒ぅぅう!!!!
「は?何泥棒だって?」
はッ、しまった、駄々洩れた!
「大丈夫かお前。まだ暑くて逆上せてるのか?」
「…いいえ。ありのままで少ーしも暑くないわ」
「?あそ。ならいい。それで?その凄いと思いたいし思われたいヤツが仕掛けたこの罠をどうするんだ?色々言ってたけど何か思いついたのかよ?」
「うーん。それね。でもこれを仕掛けた人って、チルチャックが言った通りそんな凄い訳じゃないと思うの」
鰐、もとい竜を退治した聖人みたいに、凄いんだけどいまいちパッとしないっていうかさ。何ていうかこう、やることにいじましさが透けて見えるのよね。演出過多だったり詰めが甘かったり。
「考えすぎちゃいけない気がする。ここは素直に…」
「素直に?」
厭な予感がするとばかりに一歩引いたチルチャックを尻目に、私は金の像に手をかけた。
「だから、多分正解はこれじゃないかなあ」
言いながら像を無造作に押したり引いたりする。
「ば…ッ何やってんだアニウ!」
止めに入ろうとしたチルチャックが飛びつく前に、手前に引いた像は呆気なくお辞儀するように前傾して、地面が小さく鳴動し始めた。
チルチャックは足を開いて構えながら、辺りを見回して目を吊り上げた。
「バカヤロウ!アニウお前…ッ」
チルチャックの怒声と共に地響きがして、埃が舞い上がった。
「ほらね」
小部屋の扉が開いた。
「…凄いと思われたいとか挑発とか、そういう話は何処行った?」
毒気を抜かれた様子で呟いたチルチャックに、私も首を傾げて答える。
「だからさ。片思いなんだよ」
「…成程な…」
肩の埃を払って、チルチャックは渋い顔をした。
「しかしこれじゃあ、この小部屋に大事なものが隠されてるって話も随分胡散臭くなってくるな。中が狂乱の魔術師のブロマイドだらけでも驚く気にもなれないぜ、俺は」
「幾ら何でもそりゃないよ…」
笑って答えた私の頭上を,何かが掠めた。
「あれ?」
対面の壁に当たって落ちた矢じりの錆びた矢を見、思わず振り向こうとした刹那、チルチャックにドンと突き飛ばされる。
「ぅぶッ」
顔から石床に突っ込んだ私の襟首を引っ張って、チルチャックが小部屋に駆け込んだ。半ば引きずられながら、私も縺れる足でそれに続く。