第3章 謎解きって無駄話みたいだと思う。
憧れる。焦れる。認めて欲しい。構って欲しい。好き。
………。
「ねえ、チルチャック」
「あぁん?」
気を紛らわすかのように金の像をじっと眺めていたチルチャックが、苛立ちも露わに振り向いた。
チルチャックが苛々するのは珍しくもないことだから、こういう態度にも以前ほどひるまなくなった。前はおどおどしちゃってたんだけど、別に私に腹を立ててる訳じゃないってわかれば大丈夫。むしろすぐ苛立っちゃう気の小ささがまた可愛く見えたりして、これは流石に我ながら重症だなと思う。
「あのさ。魔術師って恋人がいてもいいものかな」
「…何言ってんの?今お前のコイバナ聞いてる場合じゃないんだけど?」
「ち…違うよ!私のことじゃなくて!何言いだすのよ、もう!」
「何言い出すのよはこっちの台詞だ。いきなり何の話だよ」
「王宮の魔術師の話!王宮付きの魔術師は恋人がいていいものかな?」
「はぁ?」
チルチャックは心の底から厭な顔をした。
あちこちのパーティーを出入りして散々メンバーの色恋沙汰に振り回されたトラウマから、恋愛関係全般が大嫌いなのだ、この人は。どんな目に合ったのか知らないけれど、お陰ですっかり難攻不落のハーフフットになっちゃって、恨めしいったらありゃしない。
でも今は私たちの話じゃない。そうじゃなくて…。…うっふふ…。私たちの話だって。やだ、何か照れちゃう。
「…おい。何笑ってんだよ。笑うとこか?気持ち悪ぃな…」
「え?笑ってた?あは。そう?…ごめん」
「いや、謝んなって。悪い。言い過ぎたわ。で?魔術師の恋人が何だってんだよ」
こういうところ!
言い過ぎは謝るし、厭な話でもちゃんと聞いてくれようとするのよね。口も態度も悪いけど筋は通してくれるの。何しろ言い方や態度が悪いから、美点として受け入れられるのは難しいだろうけど、私は偉いなって思う。間違いを認めてすぐ謝るとか、厭なことを頭から否定しないって意外に難しいもん。
「魔術師に恋人がいたっていいだろ。好き合ってる相手がいるなら好きに付き合やいい。状況さえ許せば別に悪いってことはない」
「状況が許さない場合って?」
「相手が王族だとか?じゃなきゃ魔術師が王族の誰かに気に入られてて、相手との仲が思うに任せないとか…」