第3章 謎解きって無駄話みたいだと思う。
「でなければその王様の寵愛を受けてこのダンジョンを作った魔術師が暗喩されてるか。但しこれはシンボルとしての翼獅子って話に限る。どっちにしても飽くまで推測だし、そんな深い事情まで知りたいとも思わんね。仕事さえすみゃそんなことはどうでもいいんだし」
面倒そうに耳を引っ張ってチルチャックはうーんと唸り声を洩らした。
「やっぱり他の連中が来るのを待つか?」
へ?
「変な顔すんな。もしかしたら、その方がいいかもって提案だよ」
いやだって、そんなのいつになるかわからないじゃない?さっさと用を済ませて帰りたいんじゃないの?
もしかして私を気遣ってくれちゃってる?や、もしかしなくても気遣ってくれちゃってるよね?そう、チルってそういう人だもんね。何だかんだで情が厚くて優しいの。そう、そうなのよ。ああ、やっぱり素敵。やっぱり大好き。
盛り上がって参りました。どうしてくれよう、可愛いチルチャックめ。もう押し倒しちゃう?へっへっへ。
頭の中で目まぐるしく悶えつつ大人しく口を噤んだままじっと見詰めれば、チルチャックは頭を掻いて自分より僅かに小さい私を頭の天辺から爪先まで眺め渡して口をひん曲げた。
「…いや」
最後に私の笑顔をまじまじと見返したチルチャックは、苦い薬を呑んだみたいな顔で頭を振った。
「無駄だな。ここで立ち往生してまた気温が上がって来たらお前を水に浸けるとこからやり直しだ。あいつらが来るまで何回水場に行かなきゃならんか分かったもんじゃない」
よかった。
正気に返ってくれた?血迷わないでよ、チルチャック。
ここで足を止めて皆を待つのは全然合理的じゃない。少々の危険は承知でこの二人で来たんだし、高確率で大事になりそうなら兎も角、確証のない危険回避の為にいちいち分業した仲間が仕事を終えるのを待って足踏みするようなら、ダンジョンに潜るのは止めといた方がいい。足手まといはパーティーに必要ないもの。
大体そんな愚図な真似したら、次の仕事の保証がなくなってしまう。如何なチルチャックの提案とはいえ、生活がかかっては私も従いかねる。
「私もそう思います」
「やれやれ」
チルチャックは遠い目をして溜め息を吐いた。
「兎に角慎重に。開ける手順から思ったより凝ってやがるし、小部屋に入ったらいよいよ何があるかちょっとわからん」