第3章 謎解きって無駄話みたいだと思う。
「作動した罠を解く鍵が西だとすれば扉を開くのは中央ってこともある」
金無垢か金貼りか、値踏みするように像を見ながらチルチャックが首を傾げた。
「でもこの人、翼獅子には含むところがないでもない立場…」
「それも神話か?」
「いえいえ。そこらへんは欲得やら権勢の絡んだ俗世のお話です」
「なら関係ないな」
「そうかな。私がこの人なら面白くないと思うけどな」
「お前はこいつじゃないだろ。それともなにか?お前も竜を退治したことでもあんのか?」
「あったら臨時雇いなんかしてないと思うの」
「だよな」
く…。憎ッたらしい…。
フンと鼻を鳴らして横を向き、指先で顎を撫でたチルチャックをムッとして睨み付ける。頭の形、綺麗だな、くそ。
「何で含むところがあると思うんだ?」
ウンディーネと問題の像を見比べてチルチャックが考え込む様子で訊ねてくる。ちょっと焦げてチリチリしている頭の天辺の髪を撫で付けながら、私は膨れっ面で答えた。
「翼獅子に都のシンボルの座を奪われちゃったんだよ、このおじさん」
おじさんなんて言っちゃったけど、一応都のシンボルを張るくらい立派な聖人なんだよね。
「はぁ?」
「シンボルとしてはちょっと弱いっていうか、マイナーだったのね。やっぱ折角なら有名どころを戴いた方がいいじゃない?そう思ったらしい執政者が他所から翼獅子を担ぎ込んで、追いやられちゃったの」
「ふーん。まあ無理ないな。鰐退治程度じゃ箔にならん」
「…だから鰐じゃなく竜…」
「だとしても当人にしたら面白くない話だよな」
チルチャックはウンディーネから鰐退治に視線を絞って、目を眇めた。
「けど翼獅子からすりゃ大した相手じゃないんだろう」
「失礼なこと言うねえ…」
「ダンジョンのシンボルをわざわざ謎解きに引っ張り出す程意識してるのに、こいつの形跡は見当たらないだろ」
「?…て、ことは?」
「お前のいう話がここの翼獅子に関係があるかは知らないが、少なくともこれを仕掛けたヤツは翼獅子に含みがあるんじゃないか。翼獅子とこの鰐退治を誰かに準えてるように見える。まぁ失脚した政敵か何かってとこかね」
「そもそも翼獅子って何?そこらへんどういう前提で話してるの?」
「このダンジョンのシンボル、黄金城を司る紋章」
「てことは政敵は王様を蹴落としたかった勢力って話?」