第3章 謎解きって無駄話みたいだと思う。
チルチャックは思ったより手早く他の標を見付けて、"下の熱い"を止めてくれた。流石私のチルチャック、仕事が早い。
火が止まったときには安堵のあまり目眩がした。熱に逆上せただけかもしれないけど。
西の標を押したら火が止まると同時に、五本の柱が現れた。四方の柱の上にはそれぞれ小さな像が載っている。
北の柱にノーム、南の柱にサラマンダー、西がウンディーネで東にシルフ。
見合わせたチルチャックの顔が渋い。
「…ウンディーネが良い日和?」
良いも悪いも怒らせるとひたすら怖い魔物へ不満そうな呟きに次いで、目の前に水の入った皮袋がぶら下がる。
「熱かったろ。悪かったな」
額の汗を拭ったチルチャックが素っ気なく言う。もう!照れ隠し!?優しい!好き!!
チルチャックは腕組みして五つの柱へ顔を経巡らせた。
「像を退かせば扉が開く仕掛けだと思うが、問題は中央をとるか西をとるかだな」
間接キスに胸踊らせながら生温い水を美味しく頂いた私は、目を瞬かせた。
「問題?問題なんかないじゃない。良い日和を書いてあったんだから、西のウンディーネで間違いないよ。ハバナイスディ」
「……」
疑わしげな視線が痛い。いやいや、ふざけた訳じゃないの、ごめん。ハバナイスディはなかった。
中央の柱の上には両生類を思わせる何かを踏み付けて槍を掲げた戦士の像がある。他の四柱が大理石の像を戴くなか、これだけが黄金色に鈍く輝いていた。
「…何だ、これ?」
「竜を退治したマイナーな神話のモチーフ…の気がする」
神話としてはマイナーだけれど、柱の上に据えられた像としては有名なモチーフだ。観光に特化した都にある。ご当地では、このダンジョンでよく見掛ける翼獅子とちょっとした因縁があるのだが、それがここで意味を持つかどうかまではわからない。
「あそ。で、竜を退治したくせに何だって鰐の上に乗っかってんだ、そのマイナーなおっさんは?」
「だから鰐じゃなくて竜。鰐にしか見えなくても竜なの。そういう話なんだから。作り手のインスピレーションにケチつけちゃ駄目だよ。芸術家の感性は繊細なの」
「鰐みたいな竜なんか作るヤツの何処が繊細なんだ?こりゃヘボが作ったヘッポコだ」
にべもないチルチャックの言葉に噴き出しそうになった笑いを腹に押し込んで口を拭い、咳払いする。