第2章 損する探索はなるべくしたくない。何故なら彼は…
「薄くてわかり辛いが紋様があるな。こりゃ翼獅子か?動くなよ?」
床を調べていたチルチャックが一人で頷いて立ち上がった。
動くなって、この火の下でじんわり遠火で炙られてろってこと?暑さに弱いこの私に、暑さどころか熱さに耐えろと!?いやいやいや、第一こんな熱さじゃ髪が保たない。新しい髪型になったらどうすんのよ!?マルシルやファリンと違って、私は髪は魔術師の命派なんですけど!?
チラリと目だけで見上げれば、いっそ青白い高温の火が頭上を噴き荒れている。
駄目だ!!髪だけじゃなく脳味噌も炙り焼ける!!!
「無理無理!熱い!術で消す!」
「それこそ無理だ。お前、今手ぶらだろ」
言われて自分が空手でいるのに初めて気付いた。
杖…!杖!!
スプルース製の私の杖は、あまり硬度が高くなく折れ易い。数えきれない回数修理や補強を繰り返して来た面倒な杖だが、小さな私が故郷の木で手製して以来育ててきた大切なものだ。
燃えたりしたら、死ぬ!気持ちが死ぬ!
見回すと、手を伸ばして届くか届かないかの場所に転がる杖が、私のセドナの姿があった。焼けていないし折れてもいない。良かった…。
あ、セドナっていうのは私の愛杖の名で、因みにマルシルの杖はアンブローシアという…
て、そうじゃなくて!今はそれどころじゃない。この火を何とかしなくちゃ…
「動くな!」
手を伸ばしかけた私をチルチャックが鋭い声で叱責した。ひゃッと手を引っ込めると、背中に温かいものがのった。
「落ち着け。ここでまた罠にかかられても困る。何とか出来ると思うからじっとしてろ」
小さな手が宥めるように背中を撫でて、チルチャックの気配が離れて行く。ハバナイスディの上と右と左を探す気なのだろう。
「……はい」
大人しくじっと伏せて、何の気なしじゃない優しい手の名残りを味わいながら熱さに耐える。
チルチャックは冷静で合理的。浮わついたところのない堅実な大人。
無駄な潜りはしたくないし、頂けるものはしっかり頂く。
何故なら彼には家族がいるから。
チルチャックには別居状態の奥さんと、お子さんがいる。
別居中とはいえ家族の為に無事に地上へ戻るべきだと思っているんだろうし、奥さんたちに送金する為のお金が欲しいのだろう。
私がこんな事情を知っているのをチルチャックは知らない。