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子供魔術師 ーダンジョン飯ー

第2章 損する探索はなるべくしたくない。何故なら彼は…



だってこの話は、初めてチルチャックを見かけた酒場で、酒に酔った彼が前のパーティーのメンバーに話していたのを聞き齧っただけのものだから。

チルチャックのことはそれ以前から噂に聞いていた。がめつくて遣り手のハーフフットの顔役だっていうから、いかに童顔の種族とはいえそれなりの強面なんだろうと想像していたのに、普通に幼いチルチャックを見て拍子抜けしたのを覚えている。
チルチャックは酔っていたけれど口数は少なかった。何故奥さんが出て行ったのか、自分の何が悪かったのか、今は成人した子供の一人のところにいるが、迷惑をかけていないだろうか。沈んだ顔でぽつぽつ問わず語りしていた。
答えを欲しがって話しているのではないような気がした。酒のせいで内心の自問自答が溢れ出ているように見えた。

だからお前、金にうるさいのか。子供んとこにいる嫁さんに送金してんだろ?変に義理堅いからなぁ、お前は。

仲間に背中を叩かれて眉を顰めたチルチャックの顔が忘れられない。自分を羞恥しながら否定しない、煩わしげな大人の顔。

小さな体で呆れるような量のビールを煽るチルチャックは、奥さんへの愚痴は一言も漏らさず、まして責めるようなことを一切口にしなかった。
真面目なんだなと、優しいんだなと思った。
その不器用そうな愛情深さが、自責する真面目さが、遣り手と噂の顔役に似合わず気持ちを引かれてしまった。

そう思って以来町で見かける度気になってしまって、いつの間にか、凄く、凄く好きになっていた。
凄く、凄く好きになったんだと気付いた頃にタイミングよくこのパーティーのナマリから臨時雇いに誘われて、そこで初めてチルチャックとちゃんと出会った。
運命の出会い、と、言いたいところだけど、同じダンジョンに潜る者同士ならこんなのてんで有り得る展開で、興奮してたのは私だけ。チルチャックはその出会いから一貫して私を子供扱いだ。
それでも凄く凄くは加速して、今じゃ物凄く物凄く好きになってしまった。

私は元々ファザコンで、優しくて真面目、でも口が悪いチルチャックは兎に角"色んな側面"で父を思わせて直球ど真ん中。しかも悪いことにこれが私の初恋というのが凄く凄くに拍車をかけている気がする。

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