第2章 損する探索はなるべくしたくない。何故なら彼は…
「うーんと…ど真ん中?ど真ん中に立って表れを出せ…ど真ん中って何処?」
「何処?じゃねえだろ、何俺に聞いてんだ。たく、お前に解読させると二重通訳しなきゃねえからやなんだよな」
「よいお日和をお過ごし下さい」
「は?」
「ハバナイスディ」
「ふざけんな」
「いや、だってだから、そう書いてあるんだよ。よい日和をお過ごし下さい」
「誰がいい日和を過ごすって?」
「私たちじゃない?」
「アホか」
「アホじゃなくて礼儀正しいよね?」
「お前もアホだ」
「失礼な」
「失礼もクソもないだろ!?訳になってねえし、訳がわからん!」
「すぐ怒るんだから」
「生憎気の長い方じゃないんでね」
腕を組んで溜め息を吐き、チルチャックは辺りを見回した。
「上下左右か」
「上が凍えて下が熱くて右から崩れるから、真ん中に立って何か出すの。ハバナイスディ」
「喧しい。黙ってろ」
「わかった。黙る」
臨時雇いの身の上はこういうとき悲しい。
次呼ばれないと困るから遠慮がちになってしまう。特にこのパーティーに呼ばれなくなったら困る。そんなことになったらチルチャックに会える機会が激減してしまうじゃないか。
「北はどっちだ」
どよんと沈んだ私にチルチャックがぶっきらぼうに聞いてきた。
「北?」
このダンジョンは入り口が東南にある。始めの層に降りる階段は真東、次の階段は西北、ここに来るときは東に戻る道を来たから、北は…
「あっち」
指差すとチルチャックは頷きながらポケットを探った。糸に括った磁石を指先に吊り下げる。
「当たりだ。流石だな」
磁石の針の指す先を確認して、チルチャックが何故か呆れたように言う。
「確認するなら聞かなきゃいいじゃない。何かやな感じだよ、そういうの」
むくれて言ったら真顔で返された。
「鈍くさいくせに方向にだけは異様に正確だな、お前は。褒めてるんだぞ、これ」
「その褒め方はあまり嬉しくないみたいですよ?」
「いや、実際大したもんだと思うね。ダンジョンじゃ磁場が狂うことが珍しくないからな。あてになる方向感覚を持ってるヤツがパーティーにいてくれるのは実際頼もしい」
私の方向感覚がいいのは、多分祖父と母のお陰だ。ほんの幼い頃から、私は狩猟家の二人に連れられて狩りに出ていた。