第2章 損する探索はなるべくしたくない。何故なら彼は…
呪術師なんて因果な仕事を生業にしていれば、良くも悪くも村の人たちと深い繋がりが生まれる。そしてそれには否応なしに暗い翳りを帯びたものも含まれる。だから祖母は家族が呪術に関わるのを嫌った。
なのに私はそんな祖母の目を盗んで自己流の術を使い続けて、それがバレたのを切欠に家出同然の格好で故郷を飛び出してしまった。今思えば不孝なことだけれど、私は祖母のような、いや、もっと正直に欲張って言えば、祖母以上の呪術師になりたかった。
家出後、何の伝もないまま、私は南下しながら転々と様々な魔術を学んだ。流されるようにあちこちのダンジョンを渡り歩いてここに辿り着いた。
つまり私は、一貫した教育を受けたわけじゃないごちゃ混ぜの野良魔術師なのだ。
勿論私だってそれなりに山あり谷あり色々あって今ここにいるんだし、それを恥じるつもりは全然ないけれど、それでも二人を見てるとやっぱりちゃんと勉強したかったなと思ったりする。
だってこの二人、何しろ強い。持って生まれた才に加えて基礎があり、研鑽を怠らないとこうなるのかと素直に感心する。二人ともまだまだ強くなるだろう。羨ましい。
「おい、古代文字だ。読めるか」
チルチャックに声をかけられてハッとした。いけない。それでなくても鈍くさい鈍くさい言われてるのに、ぼうっとしてる場合じゃない。慌てて頭を振って気を引き締めたら、しゃがみこんで床すれすれの場所を調べていたチルチャックと目があった。
こっちを見上げて疑うように目を眇めている。
「読めるよ。見せて」
マルシルほど流暢じゃないけど、私も古代文字なら何とか読める。これもごちゃ混ぜの独学だけど、それでもまあ、一応何とか読めるったら読める。そんな疑わしげな目で見なくてもよくない?
ちょっとムッとしてチルチャックを押し退けた。床に頬をつけて低い場所に刻まれた文字を睨み付ける。何だってこんなとこに。そんな読まれたくなきゃ始めから何も書くなっての。
「上の流れるものは凍え下の流れるものは熱い」
「は?」
「いや、そう書いてあるんだよ」
「意訳しろよ」
「医薬?」
「…もういい。兎に角全部読んでみろ」
「うん?…あーと…ね。右から崩れて…左も悪くなる」
「何が?」
「さあ?私が聞きたい」
「…誰が何を読めるって?」
「私が古代語を読める」
「寝言は寝て言え。終わりか?」