第2章 損する探索はなるべくしたくない。何故なら彼は…
小部屋で魔物が待ち受けているかも知れないのに。
攻守ともに戦力としてはまるっきり話にならないチルチャックを危険に晒す訳にはいかない。私だってそう強くはないけれど、一応の攻撃魔法は使えるのだ。私の魔法の方がチルチャックの弓よりは破壊力があると思う。多分。なのに肝心なときに何の働きもしないで待ってるなんて、このままじゃチルチャックに迷惑をかける為に来たみたいになってしまうではないか。
今のところ正しくそれ以外の何もしていないけれども。
「あんまやる気出さなくていいぞ。お前の攻撃魔法は今ひとつ信用出来ない」
「それはどういう…」
「まともな魔法も使うヤツによっちゃまともじゃなくなるケースが少なくないって話だ。マルシルにしろお前にしろ」
「む」
言い返したいところだけれど、癪に触ることにチルチャックの言う通りだ。
マルシルにしろ私にしろー実力の開きは抜きにしてーそういう側面がある。しかも私の場合、自ら演出している部分もあるのでますます言い返しようがない。
「むきになんなよ。無理すんなってこと」
突き放すでも皮肉るでもない冷めた顔でチルチャックが諭すように言う。
チルチャックは基本冷静で客観的だ。痛いところを的確について来るのも悪気がある訳ではない。
だから腹を立ててはいけない。
口が悪いのにカチンと来て反論しても無意味だ。確かに私もチルチャックも小さくて非力、強さが売りではないのだから要らない無理をすべきではない。肝心なときに使い物にならなくなったら、皆に余計な迷惑をかける。
己の身丈を弁えるのはダンジョンを探索する者に必要欠くべからざる素養だ。これがないと一人のせいで最悪パーティーが全滅する。
しかし、だ。
「でもここは何かあったら無理するとこだよね?チルチャックよりは私の方が攻撃力があるもん」
「ああ、まあそうだけどな」
どや顔の私に呆れながらチルチャックはあっさり頷いた。
こういうところでチルチャックは虚勢を張らない。他人にズバズバ言う分、自分が言われたことも的を射ていれば素直に認める。
「でもだからってはりきり過ぎてドジを踏まれても困る」
辿り着いた広間の壁を調べながらチルチャックが釘を指す。
「わかってるとは思うが、俺をあてにすんなよ。自分の身は自分で守れ。戦闘が始まったら逃げ出すか隠れるか、兎に角俺は何も出来ないからな」