第2章 出逢い
そして、ようやく日が沈み、空が暗くなってきた頃──
私達鬼宮家は、結界の外……人間界へ足を踏み入れた。食事の為だ。
鬼が人間を喰らう───それは間違ってはいない。真実だ。
だが、毎日食べる訳では無い。
一ヶ月に一度、人間の血を体内に取り入れればいいのだ。二ヶ月までなら喰らわなくても平気だが、それ以上となれば命に関わる。
…まぁ、一、二ヶ月に一度血肉を喰らえば済むので、それ以外は人間と同じようなものを食して暮らしている。
そして、今日はその血肉を喰らう時。人の振りをして人間界に紛れ、人目につかぬ場所にいる人間を狩るのだ。
林の中をさまよっていると、5、6人の人間達が酒を飲んで騒いでいた。
「行くぞ。」
父の声に、皆が頷く。
そして合図とともに一斉に襲いかかった。
「うわぁぁぁああっっっ!!」
「ごめんなさいっっ、許してぇええっっ!!」
「あああっっ、痛…っ、誰かぁぁっ!助けてぇぇぇっっ!!」
人間達の断末魔が響き渡る。
他の人間に聞こえぬように、家族たちは人間達の口を塞ぎながら首を落としていく。
「……ごめんなさい。」
ぽつりと呟く。私は、この声が嫌いだ。本当は、人間なんて喰らいたくない。
でも、そうしないと私たちは死んでしまうから…
「何をしているっ!!早く殺せ!!」
双子の兄──魁真(かいま)に怒鳴られ、ビクリとする。
魁真は、チッと舌打ちすると、私から人間を奪い取って、一瞬で殺した。
「人に情を持つな。」
魁真に冷たく睨まれ、縮こまる。
「…ごめんなさい。」
「もういい。お前もさっさと喰え。」
皆は既に殺した人間を喰らっている。
私もまだ暖かい人間の身体に手を伸ばし、ちぎって喰らった。
血が滴り落ち、口元を伝い、着物に紅い染みを作る。
空が完璧に闇に包まれる頃、私たちは人間の骨を覆っていた肉を食らいつくし、結界の中の屋敷へ戻った。
血にまみれた身体を清めるため、湯浴みを済ませる。
明日…再び父に呼び出される。気が重い。このまま時が止まってしまえばいいのに……。
そんな願いが叶うはずもなく、時は刻々と進んでいくのだ。