第2章 出逢い
とうとう父に呼ばれる日が来てしまった。
何故か今日はいつもより早く起こされ、いつもは数十分で終わる着付けを、何時間もかけて侍女が着物を着付けていく。
豪華な着物や簪を付けられ、いつもはしないような手の込んだ髪型。化粧までされている。
やっと着付けが終わると、待ち構えていたように父からの呼び出しを受ける。
着付けだけでも疲れたと言うのに、これから父と婚姻について話さなければならないなんて…。
長い廊下を、シャンシャンと頭の簪を揺らしながら歩く。
一昨日と同じように父の部屋へ入ると、そこには私の知らない男性がいた。
太っていて、春だと言うのに汗をダラダラと流している。顔も肉でパンパンで、目が限りなく細い。おまけにタラコ唇。
「お父様、このお方は……?」
「おお、鬼宮か。この方は、裕次郎さん。私の友人の息子さんだよ。」
「はっ、はじめまして!裕次郎と申しますっ!それにしてもお美しい…。こんな女性とこれから暮らすことが出来るだなんて、僕は幸せ者です…!」
「はっはっはっ!うちの娘をよろしく頼むよ!いやぁ、既に孫の顔が楽しみだよ。」
……待って。話がついていけない。
私と暮らす?孫?どういうこと…?
「お、お父様……?何を言って……」
「ああ、鬼宮にはまだちゃんと言っていなかったね。裕次郎さんは、君の婚約相手だ。」
「……え……?」
「いやぁ、婚約相手だなんて……。口に出されると恥ずかしいものですね…。」
嫌……。私、この人と結婚するの……?
「私はそろそろ退散しよう。あとは二人で楽しんでおくれ。」
父はそう言って部屋を後にする。
(待って…行かないで……)
「…っ、鬼宮さんっ!」
身体に大きな衝撃が走り、裕次郎さんの背後に天井があることから自分が裕次郎に押し倒されたことを理解する。
「僕っ、絶対幸せにするんで…っ!」
裕次郎はハァハァ吐息を荒くして、至近距離で私を見つめている。
「…い、……や……」
裕次郎が着物の襟に手をかけ、はだけさせる。そして、首筋をペロリと舐めた。
「っひ……っ!」
ぞわりと鳥肌が立つ。
「あぁぁ、可愛いなぁ…。僕だけのお姫様……」
裕次郎の顔が近づいてきて、私の唇に自分の唇を重ね合わせようとしたその瞬間。