第1章 目覚め
一夜開けてもやはり記憶は戻らなかった。
朝から精神科医が診察に来たが、怪我の回復を優先させるってことで簡単な質問程度で終わった。
「よっ来てやったぜ
覚えてるだろうな」
午後になって和田が顔を出した。
(今まで何て呼んでたんだろう?)
「和田…で良いのかな?」
「まだ思い出しちゃいないのか…
あぁ、和田で良いよ
会った頃のようで新鮮だ」
和田はベッド脇の椅子に座った。
「どうだった?
両親や薫の顔を見て何か思い出さなかったのか?」
「駄目だったよ
直感的に家族だってことは分かったけど…」
和田は上着のポケットから缶コーヒーを出すと俺に渡した。
「焦ることねぇよ
まだしばらく動けねぇしな
あっ、缶も開けられないか」
笑いながら缶を開けてくれた。
記憶が戻らないのに、和田とは馬が合うというか話し易い。
だから高校からの付き合いなのか。
俺は和田に高校の時の話しを聞いた。
落ちこぼれの集まりのような工業高校で俺と和田は同じクラスではなかったが、ある事で仲良くなったらしい。
そのある事については話さなかったが、良い話しではなさそうだ。
卒業後、和田は親父さんの工場で働いてるそうだ。
俺はNK工業と言う会社に就職したらしい。
しかし、話を聞いても何も思い出せない。