第1章 目覚め
彼女は竹下薫、隣に住むひとつ上の幼なじみだという。
「本当に分からないの?」
俺の顔を覗き込んだ。
よく見ると目の周りが赤く、さっきまで泣いていたようだ。
(俺のために泣いてくれたのかな?)
「てめぇ冗談だったらただじゃ済まないよっ!!」
いきなり啖呵を切られた。
(何なんだ、こいつ?)
「まあまあ
薫ちゃん、ここは病院なんだから抑えて…
意識が戻ったんだから良かったじゃないか」
父親はいつものことのように薫をなだめた。
「でも、おじさん…」
「記憶も一時的なことだろうから、元気になるころには戻ってるよ
今日は和也も混乱してるだろうからこれで帰ろう」
帰り際に見せた薫の悲しそうな顔が印象的だった。
両親の顔…。
薫の顔…。
和田の顔…。
思い出せない。
両親は直感的に分かった。
薫は体が反応した。
和田は何か安心感があった。
俺のことを心配してくれる人達なのは間違いない。
なのに何で俺は思い出せないんだ。
それに事故のこと…。
(本当に事件に巻き込まれたのか?)
なんにしろ今の状態じゃ何も出来ないか…。