第2章 記憶
俺が意識を取り戻してから三日経った。
ベッドから動く事すら出来ず、記憶も戻らない。
焦るなと言われても、何も出来ない自分に苛立っていた。
この三日間でも家族や薫、和田や会社の人達が見舞いに来てくれた。
嬉しい半面、追い込まれていく感じがして素直に喜べない。
唯一その感覚がなくなるのは岡田刑事と話している時とは、皮肉なものだ。
「毎日ご苦労様です
“彼”の意識は戻りましたか?」
“彼”とは俺と一緒に倒れていた男性で、いまだに名前すら分かっていなかった。
「まだだよ、いつ戻るんだか?
まぁ、これが仕事だから仕方ないがね」
始めは明らかに俺を疑っている雰囲気に嫌気がさしていた。
しかし、客観的に接してくる事が反ってストレスを和らげてくれる。
問題は“彼”が意識を取り戻して何を話すのか?
それによって俺の立場はどうなるのか?
俺の記憶が戻れば簡単な事なのに、思い出せない自分が嫌になる。
そんな俺を見透かすように岡田刑事は、
「君が気に病むことじゃないから…
けど、君にも早く記憶を取り戻してもらわないと仕事にならんよ」
と笑いながら病室を出て行った。