第1章 目覚め
桧山家と竹下家は俺達が生まれる前から仲が良く、俺が生まれてからは、薫と姉弟の様に育てられた。
小さい頃の俺は弱いクセに言い出したら聞かない頑固者で、近所の子供と喧嘩しては泣かされ薫に助けられていた。
小学生になっても泣き虫でいつも薫の後ろに隠れていた。
中学生になって野球部に入ってから泣き虫が直って生意気になったらしい。
あくまで薫の見た目ではあるが…。
「どお?少しは思い出した?」
薫は俺の顔を覗き込んだが、首を横に振るしかなかった。
「何だよ、せっかくあたしが話してやってるのに…」
少し悲しそうな顔をした。
「ごめん…
でも話しを聞いていて、なんか懐かしい気はした」
その一言で表情が明るくなった。
「そうかっ!少しでもおじさんやおばさんのこと思い出せば二人とも喜ぶし…
あ、あたしのことは別に最後で良いんだからな…
あっ、もう面会時間終わるから帰るなっ」
薫は慌ただしく帰って行った。
俺は幸せ者なようだ。
なのに何で思い出せないんだ。
「くそっ…」
自然と涙が流れ落ちた。