第75章 リリス・カーペット
どれでもいい。
私が弾ける楽器。
私が使える、私を拒絶しないもの。
「あっ、これ、」
それは、一挺のバイオリンだった。
手にとると、手に馴染むようだった。
自然と、バイオリンを肩にのせ、顎で挟むと、
弓を弦にそっと、這わせた。
キューっと高い音が出た。
「弾けた、のかな?」
単純に、ただ単に出ただけの音かな、と思ったが、
指が、引っ張られるように、弓を引く。
音が続けて出ると、そのあとは、知ってる音楽が、
バイオリンから流れることになった。
「はぁ、」
無我夢中で弾いたバイオリン。
最初は、弾かされている感が強かったが、最後には、
弾ききった。感が強かった。
「認められたな。」
おわっと、驚いた。
後ろから声をかけられる。
いつ、部屋に入ってきたのか、
「カルエゴ先生?」
「ツゴイネル・ワイゼン。
弾く奏者を選ぶと言う、いわく付きのバイオリン。
気に入らない者は、呪い、屠られると言う。」
「ひえっ!?」
とんでもないバイオリンを手に入れちゃったな?
「カルエゴ先生は、どうされたのですか?」
「……クロケルに入間達の指導を頼まれたのだ。」
「ほぉ。……私もですかね?」
「そうなるだろうな。」
ニヤッと笑った、その人の笑顔は、邪悪そのものでした。
どうなることやら。
覚悟を決めるしかないな。
「お、お手柔らかにお願いします。」
「それは、お前達の頑張り次第だ。」
前途、多難です。
カルエゴ先生の指導が、優しいわけがないし、
きっと、スパルタだろうと予想して、
未来の自分にエールを送った。
「…頑張ります。」
「精々、がっかりさせないように励め。」
これは、先生なりの優しさ。
実際には優しくはしてくれないが、
つくづく、不器用な人。
出来ないなんて、言わない。
がむしゃらに突っ走って、その栄光を勝ち取ると、
決めたのだから。
「さあ、レッスンスタートだ。」
私達の試練が始まる。