第70章 それぞれの一歩。
美雪side
私の言っていることは、きっと、我が儘。
異性への興味を持っていない人に、
「私を女として見て!」
なんて、言ったところで、拒否されるだけ。
むしろ、もっと嫌いにさせるだけ。
なのに、こんなにも自分勝手なことを言ってしまったのは、どうしても、彼に自分を認識してほしかったから。
何て、自己中なのだろう?
あの、過ごした時間は、私の勘違いじゃないはず。
貴方も、少しは、私を意識してくれたんですよね?
だから、一瞬でも、境界線はあやふやになった。
だから、私は、
「私は、貴方のことが、」
「…もう、喋るな。」
ああ、やっぱり、私の事を嫌いなんですね。
私は、貴方のことが、こんなにも好きなのに。
止まった涙が、再び滲む。
「もう、観念する。」
?何の事?
「そうだ、俺は、お前の事を少なからず、他の生徒とは違う次元で気にしている。
それは、自分でも把握しきれない感情だ。
しかし、入間にとっている態度が、お前より上だと言うのは、お前の勘違いだ。
……陰険教師だが、お前には情けない格好は見せたくなかった。」
何だ?何だ?
今、どんなことになってるの?
「……好きだ、美雪、」
はぁ?誰が、誰を好きだって?
うそ、本当に?マジで?
ゆ、夢じゃ、無いよね?
幻術でも、幻でも、無いよね?
「ほ、本当ですか?」
腕の中からそう、言葉を発せれば、
耳元で先生の声が聞こえて、
「ああ、」
プチパニックと絶望で、認識してなかったが、
耳が、幸せすぎて死んでしまうほどに直ぐそこに先生の唇が感じられるほどに際どい場所にある。
「せ、先生、離して、く、苦しい。」
心臓が、破裂しそう、
酸欠で、死にそう。
「…離さない。」
ギュッとさらに腕に力が加わる。
「し、死んじゃう、このままだと、窒息する!」
一生懸命、必死の抵抗を試みる。
やんわりと胸を叩いたり、腕を叩いたり、
漸く、先生は腕の力を緩めてくれた。
窒息しそうだったのは本当だ。
解放された瞬間、大きく深呼吸した。
何度かした。
「はぁ、はぁ、」
先生は、私から距離をとると、背中を見せて、そっぽを向いていた。