第69章 溶解
カルエゴside
「…廊下は走るな。危ないだろうが。」
注意を促す。
立ち上がって、大人しく忠告を聞き入れていたように見えた美雪が、口を開いた。
「カルエゴ先生、先生、少しは話し聞いてくださいよ、」
咄嗟に、
「…忙しい。」
そう、口から出てしまった。
収穫祭の前なら、過剰な程、こいつからの接触があったが、上手くかわしていた。
偶然に接触した時は、大概、
「忙しい」と吐いて、逃げていたが、
収穫祭後は本人の体調不良もあり、あまり顔を遭わせていなかった。
だから、油断してしまったのだ。
収穫祭で、何が起こって、今、美雪がどんな精神状態なのかを失念していた。
「うわぁぁぁぁん~」
「!?」
大号泣。
前にもこんな出来事に遭遇したと現実逃避したくなった。
が、こんな場面を生徒、もしくは教師の誰かに見られでもしたら、自分の教師としての立場が相当危うくなる。
(主に、理事長と先輩によって!)
「はぁ、」
泣き止むまで、何処かに匿うしかない。
それしか、自己防衛作はない。
泣きじゃくる美雪を横抱きに抱え上げ、
執務室に急いだ。
幸いなことに、途中、誰にも見咎められること無く、
執務室に来ることができた。
執務室に入ると、ドアに鍵をかけ、防音の呪文もかける。
少し煩くしても大丈夫なようにしておこう。
ソファに下ろす。
まだ、スンスンと泣いている。
よく、あきもせずに泣いていられると思う。
パチンと指を鳴らし、魔茶とお菓子をテーブルに出す。
確か、美雪の好きなフレーバーの魔茶とお菓子なはずだ。
「……そのまま泣き続けると目が腐ってしまうぞ。
いい加減泣き止んで、水分補給に茶を飲め。」
嫌みならどれだけでも言葉が出てくると言うのに、
慰めるための言葉も優しく接するための言葉も、
そのレパートリーの少なさには、自分ですら、
呆れてしまう。
言葉に従うように、うつむき加減で魔茶を飲み出した。