第69章 溶解
生徒がまばらになった廊下を充てもなく走ってた。
追いかけてくるんじゃないかと、そんな恐怖もあって、足を止められなかった。
廊下の角を曲がったら、誰かに体当たりしてしまった。
「痛っあ!」
反動で、尻餅ついてしまった。
ぶつかったのは、カルエゴ先生で。
何で、メンタル弱ってるときに、次から次に更に弱らせる要素が投入されるわけ?
神様は、私に恨みでもあるの?
………泣きたい。
手を貸してくれて、立ち上がらせてくれた。
「…廊下は走るな。危ないだろうが。」
「カルエゴ先生、先生、少しは話し聞いてくださいよ、」
「…忙しい。」
ブワッと、悲しみが込み上げてきて、
「うわぁぁぁぁん~」
「!?」
泣いちゃいましたよ。
もう、トラウマのせいもあって、豆腐の固さのメンタルだったのが、
カルエゴ先生の拒絶の言葉で、崩れてしまった。
泣く私をどうしたらいいか戸惑うカルエゴ先生。
「はぁ、」
観念したかのように溜め息を吐くと、
ひょいっと、泣きじゃくる美雪を抱き上げた。
何処に行くとも言わず、歩きだすカルエゴ。
それにすら気がついているのかわからない美雪。
泣き止む様子もなく、ほっといたら、永遠に泣き続けるのじゃないかと思われる。
カルエゴside
はぁ。
面倒な。
音楽祭の準備に入らねばならず、
今日は、その事を問題児達に周知させに行ったはずが、問題しか判明しなかった。
まあ、あのクラスは問題児しかいないのだから、問題しか無い訳だが。
どう立ち回るか、見物だ。
自分の頭を痛める面々が少しでも痛い目に遭うのを見るのは、スッとする。
もっと、悩めばいい。
もっと、戸惑えばいい。
ほくそえんで歩いていたら、廊下の角で何かにぶつかられた。
何だ?
その愚か者は。
相手を確認すれば、それは、最近、自分が距離を置いている人物で。
お互いに前方不注意だったが、
倒してしまった相手に、手を貸さないわけにもいかず、手を差し伸べた。
戸惑いがちに腕を伸ばし、手を握る。
久しぶりに触れる美雪の手は、随分、痩せているようだった。
男は、骨張っている方が多い。
女は、丸みを帯びる傾向だ。
以前のこいつなら、ふっくらしていた。
多肉種のエケベリア・エレガンスのように。