第56章 過ぎ去りしは、
楽しい時間とはあっという間に過ぎていくもの。
少し、ぎくしゃくしたこともあったし、多大なるご迷惑と手間をかけてもらったこともあるが、概ね、穏やかに過ごせたと思う。
そんな、非日常的な時間は、およそ十日間ぐらい続いた。
今日、私は、カルエゴ先生宅から、サリバン邸に帰ってきた。
「…はぁ。」
学校に居るときとは違う先生が一杯見れて、楽しかったし、ドキドキした。
もっと一緒に居たいと思ったけど、私は、一生徒で、カルエゴ先生は、学校の先生なのだから、それ以上でも、それ以下でもない。
「はぁ、」
何度目かのため息。
心にぽっかり空いた、寂しさの穴。
埋めようもない。
「はぁ、」
「……ため息ばかりついていますと、幸せが逃げますよ?」
「わぁっ!?ビックリした。いつの間に入ってきたんですか?」
「そうですねぇ、10回ため息をつく前からですかね?」
「結構前ですね。」
音もなく忍び寄ったようだ。
「で、どうしたんですか?」
「サリバン様が、マジカルストリートに買い物に行かれるそうで、美雪様も一緒にと。」
「入間は宿題終わったの?」
「はい。無事に。」
「あの量はえげつなかったからね。」
「そうですね。」
ウォルターパークでの最下位の罰に終末日の宿題倍増がカルエゴ先生から突きつけられていて、その課題の片付けに入間は四苦八苦していた。
私は、前もってカルエゴ先生から倍増の範囲を教えてもらっていたので、もう、やり終わっている。
「さあ、準備してください。サリバン様がお待ちですから。」
「早く言ってくださいよ!」
慌てて外出の準備を済ませて、おじいちゃんと入間が待つ玄関前まで出る。
「ごめんなさい。お待たせしました。」
「きたきた。大丈夫だよ。さあ、行こうか!」
ウキウキと嬉しさが滲み出てるおじいちゃん。
今にもスキップしそう。
「美雪ちゃんとは何回か出てるけど、入間君と出るのは初めてだから、嬉しくて。」
本当に嬉しそう。
倒れないように気をつけないと。
振り回されて、倒れるなんて、そんなへまは出来ない。
後々のおじいちゃんの対応が過干渉になられても困るから。