第10章 抗えない(運命)1時透無一郎
『…行ってしまいました…』
また、静かな一日が始まる。
平穏で退屈な毎日が。
無一郎さんが居た僅かな三日間。
とても楽しかった。
また会えるといいな…
洞穴の奥に戻り夜がくるのを待つ。
無一郎が帰ってから数日。
また、同じ毎日が繰り返されていた。何かが変わったとするならば、人を食べなくなった。
前までは他の鬼が食べ残した余り物を食って命を繋げていたけれど、
今では血液を少量飲むだけで、肉を食べることは一切なくなったのだ。
『…どうしてかな…食べようとすると無一郎さんに申し訳ない』
体が拒絶するのだ。
お腹は毎日のように空かせている。
それでも、一向に受け付けようとしない。
このままではいずれ餓死するのだろうか…。
それでもいいと思うのはどうしてか
その感情に心当たりはあるものの
叶わない想いは蓋をして気づかない振りをする
『(私が無一郎さんのこと)…好きなんて…』
「好き…?誰を?」
驚きすぎて声がでなかった。
心臓がばくばくと激しく鼓動を打つ。
『む、む、無一郎さん!!気配なく近づいてこないでください!!』
「…それより、好きって誰の事?」
ぐいぐい近づいてくる無一郎には赤面し、狼狽える。
中々言わないに無一郎は口を尖らせた。
『あ…あっえっと…』
「……」
『無一郎さんがです…すみませんっ!私鬼なのにっ!!
忘れてください!!』
観念したかのように無一郎の名を告げれば、
無一郎の口角が上に上がる。
「へー…僕の事好きなの?
身の程弁えたら?」
『ですよね!!死んでお詫び「なーんてね…僕もの事好きだと思う」……っえ?』