第10章 抗えない(運命)1時透無一郎
暫くしてへとへとになりながらは戻ってきた。
『…ふー…すみません、遅くなって…危うく日に当たって死ぬところでした』
笑いながらかごを持ち直す。
その中には山菜や茸等いろんな自然の恵みが入っていた。
『ここの近くに山があって…食べ物は豊富なんですよー』
そう言いながら枯れ葉を集めて、
木の枝を使いながら摩擦で火を起こす。
どこからか持ち出したのか料理に使う器具を取り出して手際よく調理する。
『…お口に合えばいいのですが…』
茸の雑炊だ。
米なんて炊くのに時間がかかるだろうに…
「…これ、盗んできたの?」
『っ?!な、失礼な!…これは頂いたんです』
「…人から?」
そうです!とにこりと笑うに本気かと問う。
『…疑ってますね…これは山に住む老夫婦から頂いたんです
数年前に怪我していたので、手当てして重い荷物運んであげたりしたらそのまま、仲良くなっちゃって』
「……」
本当に彼女は鬼なのだろうか?
獲物である人間を助けて、人間に助けられるなんて。
それでも口の隙間からのぞく鋭い牙や頭から生える2本の大きな角は彼女が人間ではないと物語る。
『ほら、たくさん食べて元気になってください!』
「…頂きます」
上体を起こして、雑炊の入った器を受け取り、木でできた蓮華で口の中にいれると懐かしい味が口の中に広がっていった。
昔、僕が風邪を拗らせたとき
兄さんが作ってくれたような。
『無一郎さん…どうしたのですか?』
「え、何が?」
焦る彼女に現実へと思考が戻る。
彼女が自分の頬を指で差し
僕が泣いてることを伝えた。
頬に手を添えれば、一筋の涙が頬を伝っていて
僕は気づかない内に涙を流していたと知る。